打ち首こくまろ

限界オタクの最終処分場

読書感想文 『競馬の終わり』

 競馬やってるって言うと「え、この人キモオタっぽい見た目の上にギャンブル依存症とかマジ引くんですけど」みたいな顔された上に実際に距離20mぐらい置かれその後一切目も合わせてくれないんですけど、競馬の一番の醍醐味ってギャンブル性じゃなくて、生き物が主役だからこそ存在する「何が起こるかわからない」感だと思うんですよね。10年以上前にJRAのCMで明石家さんまが「サプライズ!」とか連呼してたと思うんですけど、アレです。時として想像を絶する事態が起こるのが競馬なんです。

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読書感想文 『スチーム・ガール』

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 問題です。白米に最も合うおかずは何でしょう?

 そうです。明太子です。

 日本人の主食たる白米も、福岡の特産物たる明太子も、それ単体でももちろん美味しいものではありますが、一緒に食べるとあら不思議、明太子の持つ塩辛さが、白米の持つ甘さや芳醇な香りが、互いの味を引き立てるのです。甘さに甘さを組み合わせてもダメ、しょっぱいからこそ甘さが際立つのです。白米に卵を組み合わせるやつは素人なんです。

 では次の問題です。

 百合小説にもっとも似合う舞台設定は何でしょう?

 そうです。スチームパンクです。

 百合もスチームパンクも、それ単体でももちろん美味しいものではありますが、一緒に摂取するとあら不思議、スチームパンクの持つ油や蒸気の蒸せ返るような臭い、錆びた鉄の質感の中にあってこそ、清らかで甘い少女同士の恋愛感情が際立つのです。常識ですよね。

 しかし、こうも最高な「百合スチームパンク」小説は、この世にほとんど存在しません。何故? この組み合わせが最高なのは世界中誰もが知る常識なのに。このあまりにも不自然な状況は、やはり現政権による出版業界への圧力が存在していることの動かぬ証拠だと言わざるをえません。

 そんな中、「百合スチームパンク」ど真ん中の作品が、昨年の10月に刊行されました。『スチーム・ガール』です。

 舞台はゴールドラッシュに沸く、アメリカ西海岸の港町。飛行船が行き交い、建設用や縫い物用の蒸気甲冑が人々の暮らしを支えている世界で、主人公のカレンは"縫い子"––––を隠れ蓑にした娼婦として働いている。そんな彼女が住む娼館に、一人の少女・プリヤが逃げ込んできた。インドから奴隷娼婦として売り飛ばされた彼女に、カレンは一目惚れしてしまう。そこに立ちはだかるのは、電気手袋を操るプリヤの主人・バントル。愛するものを守るため、カレンは立ち上がる... というのが大まかなストーリー。

 16歳の少女が娼館で働いているというのは冒険活劇としては割とキツめの設定だと思うのですが、それに関する直接的な表現はないのでご安心を。それに、カレン自身(この娼館がかなり健全な運営がなされているというのもあり)自分の境遇に対して悲壮感はなく、彼女の同僚もそこそこ健康的な生活を送っています。

 ストーリーの軸となるのは、カレンとバントルとの対決、そしてカレンとプリヤの恋愛となります。あまり恋愛小説を読む方ではないのですが、この小説の恋愛描写は、まるで小さな高級菓子のように、主張し過ぎる事なく瑞々しい甘さを伝えてくれます。19世紀アメリカ、同性愛者が大手を振って歩くなど考えられなかった時代で、プリヤへの思いを募らせるカレンの心が、少女らしく爽やかに、ストレートに描かれているところがなんとも尊いです。

 また、この小説には、同性愛以外にもマイノリティ要素を持つ人物が多数登場します。同じ娼館で働く人には性自認が女性の男性(!)がいますし、用心棒は解放奴隷の中年男性。そして物語を動かすのは黒人の副保安官と、彼の相棒のインディアン。様々なバックグラウンドを持つ人々が、渾然一体となって悪党に立ち向かっていく痛快な物語となっています。

 ストーリーもさる事ながら、文章の美しさも目を引くところ。通常SFって固有名詞をふんだんに使ったりバッキバキに堅い言葉を使ったりして目が滑りまくるのですが、本書に関してはカレンの一人称視点で進むため、文体はかなり読みやすいです。そして表現の美しさ。雨で濡れたシャツを「まるでクラゲがへばりついているように」と表現したり、黒人警官が黒いコートにくるまって憮然として座っているのを「カラスがいやいや人間の姿になったよう」と表現するなど、さすがヒューゴー賞作家だなぁという感じです。

 全体的にすごく楽しい小説だったのですが、一点だけ。あらすじに「カレンは蒸気駆動の甲冑機械を身にまとって立ち向かう!」と書かれていたり、表紙にもそれらしき機械がデカデカと書かれてたりしますが、カレンが甲冑機械を身に纏うシーンは作中にほとんどありません。あらすじを鵜呑みして、スチームパンクロボアクションを期待すると肩透かしを食らうかも。

 しかし、スチームパンクx百合xロボアクションなんて絶対最高の組み合わせになるのに、どうしてこの作品でもそうしたところに踏み込めなかったのでしょうか。やはり、イルミナティの力がこうしたところにも及んでいると言えるのではないでしょうか。

初心者に送る「アイドルマスター ミリオンライブ!」のCDシリーズまとめ

 ミリシタから入った人がちょっとCDに手を出してみるかと思ってCDショップやレンタルショップに足を運んだ場合、リリースされているCDの多さに確実に面食らうことになります。現在50枚近くのCDが出ている状況で、どれから手をつけていいのかわからない、なんでこのCDにはソロ曲が入っているのに、このCDにはユニット曲しかないんだ等、とにかくCDに手を出そうとした人にとって極めて敷居の高い状況にあると思います。情報を得ようとしてランティスの公式サイトに行っても、全然情報が整理されていなくてメチャメチャ分かりづらいです。仕事しろ。

 僕もミリシタからミリオンライブに入ったのですが、同じ思いをする人が少しでも減るよう、敷居を少しでも下げるためにこの記事を書きました。この記事では以下のことを解説します。

  • ミリオンライブのCDシリーズをリリース時期順に紹介
  • それぞれのシリーズの特徴を簡単に解説
  • それぞれのシリーズの中からオススメ曲をいくつかチョイス
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こんな時だからフリースタイルダンジョンを勧めたい

www.fnn-news.com

 フリースタイルダンジョンの進行役を務めるUZIが麻薬で逮捕。衝撃的なニュースでした。

 すでに収録されている分はUZI出演部分をカットして放送、その後は代役を立てて放送されることが決まり一安心...でしたが、"ラスボス"を務める般若が司会のZeebraをラップでdisる等、状況はあまりよろしくありません。

 ですが、数ヶ月前からフリースタイルダンジョンにハマっている者として、このまま番組が終わってしまうのは悲しいものですし、このニュースによって「やっぱHIPHOP界隈ってそんなもん」と思われてしまうのも悲しいです。まぁHIPHOP界隈のことなんて正直あまりわからないですが、テレビで見ている限り、「HIPHOPは不良とチンピラのもの」という認識はだんだんと過去のものになりつつある気がします。

 その中でもMCバトルは異常な進化を続けていて、側から見ていると「能力者同士の異次元バトル」のような様相を呈しています。本当、言葉を操る能力者同士が、自分の考えの及ばないような領域で戦っているんですよ。HIPHOPに興味なくても絶対面白いですよ。これまでHIPHOPなんてB-RAPハイスクールでしか知らなかった僕がハマってるんだから間違いない。

 本当は紹介したいバトルが10戦ぐらいあるのですが、ここでは3戦に絞って、フリースタイルダンジョンとMCバトルの面白さについて解説していきたいです。ほんと面白いですよ。

CHICO CARLITO vs R-指定

 初期のベストバウトですね。ここまでモンスター達を相手に中々勝ち進むことの出来なかったチャレンジャーの中で、CHICO CARLITOは圧倒的な力を見せつけてモンスター達をなぎ倒していきました。そして、前人未到の4th Stageまでたどり着き、R-指定をバトルフィールドに引きずり出します。

 R-指定はラップバトルの全国大会「UMB」を3連覇した最強のフリースタイラー。ですが、その3連覇を最後にMCバトルから引退。これは引退から約1年ぶりの復帰戦となりました。

決める最強のロン毛とロン毛
それ出来ないなら本でも読んで
本命CHICO 乗っかるヒップホップ
最初で最後の出会いだぜ say hello もしくはグッバイ
正解などないぜ でもこれがアンサーになるか
最初で最後どうのこうの言うよりも
まずカマしてみてよフロウ

 いきなり「ロン毛とロン毛」「本でも読んで」で7文字の高度な韻を踏んでいますが、実はこれはオリジナルな韻ではありません。

www.youtube.com

 この曲の2:40からの「交錯する本音と本音 出来なきゃお家で本でも読んで」という部分が元ネタです。このように、他の曲やバトルのリリックを引用する行為を「サンプリング」と呼びます。 

 この一節は度々サンプリングされる超有名なものなのですが、それをかつての最強フリースタイラーを引きずり出した場で、「決める最強のロン毛とロン毛」と改変した上でサンプリングするのだから、客席が沸かないわけがありません。試合開始一発目がこれだったら、これから先どれだけすごいバトルになるんだろう、と。

 先攻のCHICOの先制パンチは強烈でしたが、久々の実戦のR-指定の第一声もかなりエグいものになりました。

4連覇に高まってるぜ
でもそのロン毛は絡まってるぜ?
空回ってるスキルは要らねえ
正解不正解そんなもんは知らねえ
「こいつを倒せば前人未到」?
「よく頑張った感動した」自民党総裁 まるで小泉
こいつぶっ壊し 立つぜ懲りずにトップに

 末恐ろしいほどの韻の連打! たった8小説の間に4組もの韻を踏むという超絶スキルを見せつけます。「ロン毛」の話も「前人未到」の話もバトル直前やバトル中に出てきたワードなので、これも全部即興な訳ですよ。どんな頭してるんだ。

 そしてR-指定のエグいところは、韻やワードの連想によって話題を次々に切り替えていくところ。「前人未到」から韻を辿って「前自民党総裁小泉」の話になり、「自民党をぶっ壊す」の連想から「こいつぶっ壊し」。ここまででも十分凄いですが更に韻を踏んで「立つぜ懲りずにトップに」。つまり最終的に、この舞台が彼自身の復帰戦であることを踏まえた、R-指定の高らかな復活宣言となっているのです。ちなみに、前自民党総裁谷垣禎一氏でありこのリリックは誤りですが、カッコイイので許されます。

 対するCHICOの2バース目ですが、全体的にR-指定の言っていることの繰り返しになってしまい、ビートには乗っているもののかなり苦しい印象です。最終的に言葉に詰まってしまったところを、R-指定は見逃しませんでした。

詰まっちゃって立ち往生
俺ならマイクロフォン末期症状でも
気づけば後ろにチャンピオンロード
まるでロード トラブル起こすか?
高橋三舟のような関係
ヒビが入るより日々ライムするぜ
今見せるぜ このkick it
まるでお前俺が出て来た事が危機

 言葉が詰まったところを捕まえて「立ち往生」「マイクロフォン」「末期症状」「チャンピオンロード」と怒涛のライミング。「気づけば後ろにチャンピオンロード」はR-指定の歩んできた歴史を思い起こさせる一節です。

 そして「ロード」から「虎舞竜」を連想しての芸能ネタに移行してからの「ヒビが入るより日々ライムするぜ」というパンチラインまでの流れが美しすぎます。何度も言いますがこれ即興なんですよね。

 このバトルは、HIPHOPシーンに付きまといがちな「ワルの文化」的な要素が一切なく、ひたすら「韻の上手さ」「フローの気持ちよさ」「ディスの的確さ」「ユーモア」といったテクニカルな要素で構成されています。要は頭脳戦です。HIPHOPに全く詳しくなくても、見ただけで「ヤバい」と分かるようなものにまで進化を続けているのが今のMCバトルシーンです。

D96 vs FORK

 R-指定は昨年の8月をもってモンスターを卒業したので、通常回では彼の姿を見ることはできません。

 今のモンスター達は全員2代目となるのですが、2代目モンスターの中でも別格の存在となるのが、"ライム至上主義"を掲げるラッパー、FORKでしょう。

 モンスターとなって数々のチャレンジャーを返り討ちにし未だに無敗ですが、その中でも最もヤバい1戦を。

 D96は若手の中でも有望株のラッパーであり、そのフローも中々悪くはありません。対するFORKはフローのほとんど無い語り口調。しかしそれでも圧巻なのがFORKの2バース目です。

全く入って来ねぇよ こいつの
客は棒立ち まるでカカシ
見てるとなんだか俺の方まで悲しい
お前はまだまだ剥けてない
より中身 人は 見据える高み
ヘッズは興奮して前屈みだよ
見た目じゃねぇ 俺は中身オリジナル
俺が勝ってまた深夜2時になる

 8小説のほぼ全てを「ああい」の韻で網羅。韻はスノーボードで言うところのトリック、けん玉で言うところの技みたいなもので、つまり連続で決められるとすげぇってなるんです。動画を見ても、韻を踏んでいくたびに客席が高まっていく様子がわかります。

 そして最後、腕時計を見ながら「俺が勝ってまた深夜2時になる」。フリースタイルダンジョンが深夜1:30〜2:00の番組であること、FORKがモンスターになってから未だ無敗であることを利用したパンチラインです。客席からも「ヤバいヤバい」という声が溢れるほど、えげつないぐらいカッコイイです。韻にこだわるだけでなく、「絶対王者感」の演出が巧みなのもFORKの凄い所です。  

NAIKA MC vs FORK

 ラップは韻を踏めばいいのか? と言われるとそうでもありません。韻を重視したバトルスタイルもあれば、相手との対話を重視したスタイルもあります。そのような異なるスタイル同士のバトルを「スタイルウォーズ」なんて呼んだりします。ここではその中から一つ。

ようNAIKA お前に足りねえのはライムだ
それを教えに来た FORKレペゼンICEBAHN
これはルールじゃねえ HIPHOPマナーだ
お前は今まで群馬で何を学んだ?
そのマナー学ぼうとしねえ奴は
マナーモードみたく黙って ブルブル震えとけ ボケ
邪魔なんだよ下がれチャレンジャー
俺はお前が超えられる壁じゃねえんだ

 「韻にこだわる」という姿勢を見せながら固く韻を踏んでいくFORK。最後の「チャレンジャー」「壁じゃねえんだ」は一見韻では無いですがそれでも踏んでいます。こうした高難易度の韻をさりげなく踏むことで、自身のライミングスキルの高さを示しています。

 そして対するNAIKA MCですが、

え? 壁だと思ったこと一度だってねぇけど?
え~何この人? 韻がどうこう
はぁ?死ねよテメーおい!
別に気にしてないよ韻を踏むんだろ
ひたすら踏んでくれよ
踏まなくてもお前の10年後によ
韻踏まなくてもテッペン取ったぞ おい

 一切韻を踏みません。NAIKA MCの持ち味は韻を無視し、ユーモアと熱さだけで試合を強引に持っていくストロングスタイルにあります。実際このリリックの通り、彼はこのスタイルで2016年のUMBチャンピオンに輝いています。

 韻を踏むのはラップの重要な要素。ですがそれだけで勝敗は決まりません。重要なのは「どちらがヤバいラップをできるか」。正直FORKもNAIKA MCも最早ラップかどうか若干怪しい部分はあるのですが、カッコよければいいんです。

最後に

 本当はDOTAMA vs ACEという抱腹絶倒かつエゲツないバトルも紹介したいのですがここでは割愛。興味があれば調べてみてください。

 いやもう本当に面白いですよMCバトル。一回見てもすげぇってなるし、バトル中のリリックを紐解いてみてもすげぇってなります。HIPHOPに対するイメージだけで避けられるのはちょっと勿体ないのでこの記事を書かせていただきました。

 それだけに今回の事件は残念ですね。フリースタイルダンジョンはMCバトルブームの火付け役だっただけに... この勢いを止めないようなんとかしてもらいたいものですが。

ヤバイTシャツ屋さん「Galaxy of the tank-top」が超エモい傑作ですよと言いたいだけ

 ”ヤバイTシャツ屋さん”という名前からして「あっなんか面白い系の曲やってるバンドなんだな」と直感するんだけど、本当にその通りでヤバイTシャツ屋さんの曲には基本的に何のメッセージ性も無い。

床一面に並べて タンスを一面に並べて
その上で踊るんや それがそう DANCE ON タンスや
何やこの歌の世界観 何歌ってもええってもんとちゃう
って分かってるけどそれでも歌う
YES! This is "DANCE ON タンス"や

タンスの上で さあ DANCE and DANCE
踊れ DANCE ON TANSU and DANCE ON TANSU
なんやこれ タンスの上で さあ DANCE and DANCE
踊れ DANCE ON TANSU and DANCE ON TANSU

 「DANCE ON TANSU」と歌いだけのようにしか思えないサビと、そこまで持っていくために用意された「タンスを一面に並べ」るという強引な設定。本当に中身の無い。しかし、語感重視で組み立てられたサビは一度聴いたら忘れられなくなるほどキャッチーで、ライブではここをみんなで歌いながら飛び跳ねるんだろうなぁと想像できる。自分たちの歌ってることの意味不明さに「なんやこれ」とツッコみながら、頭空っぽにして飛び跳ねるんだ。

 ちなみにこの「DANSU ON TANSU」はアルバムの3曲目に収録されているが、同アルバムの「メロコアバンドのアルバムの3曲目ぐらいによく収録されてる感じの曲」では以下のように歌われている。

メロコアのアルバムの3曲目ぐらいに
よく収録されてる感じの曲
メロコアのアルバムの3曲目ぐらいの
ライブでお客さんを無理やり飛ばせる曲 とべー

 「他の奴ののあるあるを言いながら自分もそのあるあるの中に入ってる」という関西人が良くやりがちなボケ、それをアーティストが心血注いで完成させるアルバムの中でやってしまうのがヤバイTシャツ屋さんというバンドだ。

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