岡崎体育は、「MUSIC VIDEO」という曲(とミュージックビデオ)で昨年ブレイクした、京都府育ち奈良県出身のシンガーソングライターだ。
「MUSIC VIDEO」は世の中のミュージックビデオのあるあるを歌った曲で、人並みに邦楽に触れている人ならば共感する面はあるはず。
僕もテレビで流れてきたのを聴いた時には面白いとは思ったが、その時は特にそれ以上岡崎体育自身に興味を持たなかった。当時僕は岡崎体育を、エンタの神様で死ぬほど湧いて死ぬほど消えていった歌ネタ芸人と同じカテゴリに分けていて、すぐ飽きるしすぐ飽きられるんだろうなと思っていた。
そんな僕の見る目のなさをよそに、岡崎体育は着実にキャリアアップを重ねていく。夏フェスにも出て、アニメのタイアップも取って、先日にはMステに3回目の登場をした。
このMステでのパフォーマンスがTwitterで話題になっていたので気になって見てみたら、いや凄かった。これはただのコミックシンガーじゃないですよ。
岡崎がMステで披露したのは、デビューアルバム「BASIN TECHNO」に収録されている「Explain」。「名刺代わりに作った」というアルバムの一曲目を飾る曲だ。
イントロが始まるなり、ゴリゴリのハードコアが始まってビビる。「MUSIC VIDEO」の牧歌的な雰囲気とは全く異なる曲調でかなり面食らった。
そんなフロア沸騰確実なイントロを抜けての1番の歌詞がコレだ。
ゴリゴリのイケてるイントロ終わってここがAメロ わりと気持ちよく歌い上げる感じで この辺りからピアノが入ってきていい感じになる メジャーで活躍するバンドがやりがちなアイデア 突然の Rap こういう Rap の部分は2番のBメロ終わりにありがちだけど まさかの序盤で Rap しちゃってる岡崎マジぱねぇ そしてここから「ううぃーーーん」てシンセの音が上がっていってて ドラムのビートが速くなってきて サビ始まりますか? ここからサビ 俺は今歌ってるんだよって みんなに届いて欲しくて でも歌詞にはメッセージ性なんて全く無くて ただ説明してるだけ 曲を説明してるだけなんだよ ここでまさかの YEAH YEAH
つまり「Explain」は「曲を説明する曲」という、とってもメタでバカバカしい曲なんだ! さらにバックでは相変わらずバキバキのハードコアが鳴っている。そんなカッコイイ音の上で「ううぃーーーん」という擬音交じりで展開される頭の悪い歌詞。このギャップが凄い。
そして2番ではこう続く。
大事な1番のサビが終わって2番に入った瞬間に 実は口パクだったことをみんなにカミングアウト だから歌ってる途中に 水分補給もできる 便利
ここで岡崎はマイクを口から外して、観客に口パクをアピールする。これはこの曲だけ口パクというネタなのかと思えばそうではなく、実は岡崎体育のライブはほぼ全てが口パクなのだそうだ(ライブのパフォーマンスの可能性を広げるためというのが理由らしい)。つまり2番では曲ではなく「岡崎体育がやっているパフォーマンス」を説明している。それも1番の歌詞の世界観からシームレスに、だ。
そして最後のサビではこう歌う。
最後のサビ 俺はまだ歌っているんだ お前ら 覚えとけ俺が岡崎体育だ 胸の BASIN TECHNO の文字は消えることはない 俺はまだ歌ってるんだよって言ったもののやっぱ口パクだ いつかはさいたまスーパーアリーナで口パクやってやるんだ 絶対
ここまでのアホっぽさは引き継ぎつつ、歌われているのはとんでもなく力強い決意表明! 相変わらず鳴っているハードコアの音と相まってメチャメチャかっこいい。そしてかっこいいアウトロと変なダンスで大盛り上がりのうちに曲は終わる。
「Explain」は単に「曲を説明する曲」として紹介されることが多いみたいだが、それはこの曲の一面しか表していない。ここで見てきた通り、この曲は「岡崎体育はこんな音楽をやっています」「岡崎体育はこんなパフォーマンスをしてます」「岡崎体育が目指すところはこれです」ということを説明している、いわば岡崎体育の自己PRソングだ。そしてこれをたった一曲、たった3分半で、破綻もなく詰め込み、そしてバカバカしくてメチャメチャかっこいいのだ。名刺代わりの一曲として完璧すぎる。なんなんだ岡崎体育は!
そして改めて冒頭の「MUSIC VIDEO」を聴いてみると、ありがちなコミックソングという僕の印象がいかに浅はかなものだったかに気づく。キャッチーなサビにキャッチーなダンス、そしてガラリと変わる2番以降の展開。聞き応え抜群のポップソングなんだこれは。思わず口ずさみたくなるようなメロディも心地いい。いや、これは売れるわけだよ。話題性というだけでなくて、曲のクオリティもすごいもの。こんな感じで、今や僕は岡崎体育にどっぷりハマってしまった。
一通り聴いてみたところ、今の所1番のお気に入りは「割る!」。韻踏みまくりの歌詞に一度聴いたら忘れられないメロディ、聴いてるだけで楽しくなってくる。そしてこれはJINROのCM用に書き下ろした曲なんだそうだけど、そんなクオリティじゃないだろ!
というわけでみんな、岡崎体育を聴いてくれ。ただのコミックシンガーじゃない、天才シンガーソングライターの作る、ちょっとアホっぽくてファンシーで、でも幸せになれるこの世界観の、一端でもいいから触れて欲しい。関係ないが僕も京都府育ちなので、岡崎体育の曲に時折登場する京都弁を聞くと、なんだか安心した気持ちになる。
(ちなみに、「MUSIC VIDEO」のミュージックビデオの監督を務めた"こやまたくや"は岡崎体育の中学の後輩であり、"ヤバイTシャツ屋さん"というバンドで活動している。こちらのバンドも「喜志駅周辺なんもない」「無線LANばり便利」「週10ですき家」「DQNの車のミラーのところによくぶら下がってる大麻の形したやつ」等の、曲名だけで既にオチてるようなアホ曲(しかしカッコイイ)を量産している)