打ち首こくまろ

限界オタクの最終処分場

漫画村ブロッキング騒動を見てモヤモヤが止まらない

 エンジニアの端くれとして漫画村騒動にはちょっと思うところがあったんだけど、ちょっとおもしろ記事が掲載されてたのでこれを機につらつらと語ってみる。

tech.nikkeibp.co.jp

IPブロッキングは検閲だろと言う話

 同氏は「出版業界としての意見ではなく、あくまで個人の意見」としたうえで、法制化に当たって「DNSブロッキングだけでなく、IPブロッキングまで検討するべき」と主張する。この場合、IPブロッキングの対象は、日本の法執行力が及ばず、削除依頼や発信者情報の開示請求を無視し続けている海外のホスティング事業者に限る。

 IPブロッキングを、日本からの発信者情報開示を拒否する悪質な海外ホスティング事業者に対する抑止力にする、というのが川上氏のアイデアだ。裁判所による仮処分などの司法の判断に基づき実施するという。「ほとんどのケースはDNSブロッキングとIPブロッキングの組み合わせで対応できるはず。(特定のキーワードがあるデータやコンテンツをブロックする)データブロッキングは検閲になるので、そこに踏み込むべきではない」(川上氏)。

 一番面白かったのがこの部分なんですけど、いやいや、「IPブロッキングはギリギリ検閲にならない」と言いたいんでしょうけど、モロ検閲でしょうよ。

 ちょっと説明すると、例えば漫画村にアクセスしようと「mangamura.org」とアドレスバーに入力すると、ブラウザは「DNSサーバ」というサーバに「すみません、mangamura.orgのIPアドレスを教えて頂けませんか?」と聞きに行きます。このIPアドレスを入手することによって、ブラウザはどこにアクセスしに行けばいいか分かるようになります。役所に人の住所を聞きに行くみたいな感じです。

 DNSブロッキングとは、「mangamura.orgのIPアドレスを教えて頂けませんか?」という質問に対して、「いやーちょっと、そのサイトのIPアドレスは教えられないことになってるんですよー」と言って回答を拒否することです。こうなると、ブラウザはmangamura.orgのIPアドレスを知ることができないので、漫画村にアクセスすることができなくなります。めでたしめでたし。

 ではありません。DNSサーバを介さなくたって、友人やそこらの掲示板から「mangamura.orgのIPアドレスはaaa.bbb.ccc.dddだよー」という情報を入手することだってできます。そしてブラウザにIPアドレスを直打ちしてしまえば、晴れて漫画村にアクセスすることができてしまいます。なんてことだ。

 これを防ぐのがIPブロッキングです。我々がインターネットを利用できるのはインターネットサービスを提供している事業者(プロバイダ)がいるからなのですが、IPブロッキングとは、プロバイダがブラウザから飛んでくるパケットを監視して、宛先が漫画村のものであるものは捨ててしまう、ということを言います。こうすることで、IPアドレスを知っていても漫画村にアクセスできなくなります。めでたしめでたし。

 ......いや、これって完全に検閲でしょ? 「中身を見てないから問題じゃない」という話じゃない。特定の人同士の通信を妨害する行為って検閲以外の何物でもないじゃないですか。何言ってるの?

 郵便に例えると分かりやすくって、例えば、「政府が反社会的と認めた人物宛に発送された手紙や小包を、日本郵政が破棄した」というのは完全に政府による検閲ですよね。IPブロッキングもこれと同じ、「手紙や小包」が「パケット」に変わるだけです。

児童ポルノとは話違いすぎだろと言う話

 一方で、現在日本では児童ポルノ画像へのアクセスブロッキングを目的としたDNSブロッキングが既に実施されています。この時も「ブロッキングは違法行為なのではないか」と議論が紛糾したのですが、以下の記事に解説されているような理由でブロッキングが承認されています。

www.bengo4.com

刑法上、犯罪の構成要件に該当する行為であっても、

(1)正当行為(社会的に正当として許容される行為)

(2)正当防衛(侵害者に対して止むを得ず反撃する行為)

(3)緊急避難(自分や他人に危険が差し迫っている中で、危険を避けるために止むを得ず行う行為)

のどれかに該当する場合、違法性が否定される。

.

3)の緊急避難は、緊急事態においては、悪くない人に対する加害が違法でなくなる場面です。

<1>現在の危難があること

<2>やむを得ない回避行為であること(補充性)

<3>生じた害が避けようとした害を超えないこと(法益権衡)

の3つが求められます。

作業部会ではまず、児童ポルノがWebサイトにあげられている状況が、児童にとっての権利侵害を拡大し続ける状況であり、<1>現在の危難があると考えました。また、児童ポルノによる権利侵害は、通信の秘密の侵害よりも深刻である場合があるので、<3>法益権衡も認められる余地があると考えました。

そこで、児童ポルノの削除ができないなど他の方法がない場合には、<2>補充性もあるので、その場合には、緊急避難が成立すると考えました」

 つまり、児童ポルノ画像に対するブロッキングは緊急避難の3要件、「現在の危難」「補充性」「法益権衡」を満たしているために違法行為ではない、ということです。児童ポルノの場合、被害者の人権が将来にわたって回復不可能なほど深刻に傷つけられるため、この論理は理解できるものです。

 しかし、政府はこの「緊急避難」の論理を、漫画村などの海賊版サイトにも適用しています。(インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策(案))

 ただ、この資料に書いてあることを読んでも、緊急避難の適用は無理筋であると言わざるをえません。特に「補充性」の点。海賊版サイトの場合はブロッキングに頼らなくても、事業者の摘発により解決することができるはずです。児童ポルノ画像の場合は加害者が個々に点在してる、かつ被害の回復が困難なのであるに対し、海賊版サイトの場合はサイトを運営している主体があること、かつ損害賠償請求を行うことで被害回復可能であるはずです。現実にブロッキング対象として名指しされているAnitubeの運営者はブラジルで起訴されている訳で、この時点で補充性の要件は崩壊してる訳です。

 というか、この資料に書いてあること無茶苦茶ですよ。どう試算したら被害額数千億円になるんだ。スリルドライブじゃないんだぞ。

政府が緊急避難だと認めたからなんだという話

 それでこんなメチャクチャな資料をもとにNTTがブロッキングの開始を宣言した訳なのですが、もう、アホだなぁという感想しか抱かないです。

 政府が「これは緊急避難だぞ」と言っても、実際に司法判断を行うのは政府とは独立した裁判所となるため、ブロッキング実施により普通に摘発されて起訴、有罪判決なんて普通にあり得ます。そうなっても政府は何もしてくれませんよ。

 起訴される人も、ブロッキング判断を下した経営陣だけでなく、ネットワーク機器にブロッキングを設定した現場技術者が起訴される可能性だってある訳です。限りなく黒に近いブラックな行為を、NTTは社員に強いるんですかね。

 疲れたので以上。