打ち首こくまろ

限界オタクの最終処分場

退職してみた2019

 タイトルの通り。と言っても、退職したのは結構前。最近ようやくメンタルが安定してきだしたので、これから転職したり就活したりする人のために、あと自分の備忘録としても書いておく。なお、この物語はフィクションです。

前職

 どこにでもある大手SIerに新卒入社。主にグループ会社からの受託開発を行っている。最近は一般市場向け案件に力を入れて爆死を繰り返している。

よかったところ

充実した新人教育

 集合しての新人研修が約3ヶ月、その後2年間は散発的に研修が組まれるなど、新人教育は徹底しており、充実していた。

 内容も、基本的なビジネスマナーから、開発・営業の実践研修までと幅広く、2年間を終える頃にはこの会社で行われる全業務の基礎を習得している、という人材になる。さすが総合職採用。

 反面、新人が2年間の間存在と消失を頻繁に繰り返すことになるので、新人を受け入れる職場からはすこぶる評判が悪い。しかし、新人の僕たちにはそんなことは関係ない。しゃぶれるモノはしゃぶり尽くそう。  

職場の人

 本当に、先輩方には良くして頂いた。コミュ障を煮詰めて固めたような入社当時の自分に対しても根気強く接してもらったし、構成管理の概念すらも知らなかった自分にgitを教えてくれ、そこからJenkinsを使ってのCI/CD環境構築を任せてもらった。正直、この会社じゃなかったら、この先輩たちがいなかったら、自分はエンジニアになれていなかったんじゃないかと思う。

 その他、ベテラン社員の人たちもほぼ全員温厚で、優しい人たちだった。別部署ではパワーがハラスメントしている民族がいるようだが、少なくとも自分の業務の範囲ではそのような人は一人も観測できなかったし、この会社では少数派だったんだろうと思う。  

福利厚生

 最強。特に家賃補助がチート級の能力を誇り、生きているだけで数万円の家賃補助が振り込まれる。その他、財形貯蓄や持株会の奨励金、確定拠出年金などオーソドックスな福利厚生は全て網羅している。

 さらに有給が年20日+夏休みの5日の計25日あり、ありすぎて使いきれなくて困るという贅沢すぎる悩みを抱えることになる。特にベテラン社員は有給の使い方がヘタクソで、年末になると有給消化のためベテラン社員がゴッソリ居なくなる。

転職のきっかけ

 非常にレガシー極まりないプロジェクトに突っ込まれた事がきっかけ。この記事の主旨とはブレるが、面白いのでちょっと書いてみようと思う。

 就職してから3年後、数十年前に開発されたあるシステムの更改プロジェクトに参画することになった。開発言語は当然C言語、それで実装されているのは独自実装の謎の通信プロトコル、仕様書は数千ページあるPDFファイル。この時点で泣き出したくなる。

 途中参画者がいきなり開発に入れる訳がないので、まずはテスト環境構築の業務を行っていた。僕たちは電車ではるばる2時間かけて、サーバの置いてある「研究所」なる施設まで赴き、残業しながら粛々とOSをインストールしたり、数十台あるNW機器のコンフィグをコンソールで接続して設定したり、数百本あるLANケーブルで数十台のサーバと数十台のNW機器を接続してサーバラック群を巨大な毛糸玉のように変貌させていた。(クラウド全盛期の昨今だが、レガシープロジェクトのレガシー人間が採用するテスト/商用環境は、当然オンプレミスであり、愛情のこもった手作業である)

 一回きりの構築ならまぁ大したことではないが、ある問題がある。このプロジェクトは予算がほとんどなく、本来テスト環境が6セット必要なところ、3セット分の設備しか揃えられなかった。しかしそれでも、テストしたい環境構成のパターンが6つある。じゃあどうするか。テスト環境のローテーションを決めて、一週間ごとにテスト環境の一つを解体して、そこにまた別のパターンのテスト環境を作るのだ。

 つまり一週間ごとに、僕たちは電車ではるばる2時間かけて、サーバの置いてある「研究所」なる施設まで赴き、残業しながら粛々とOSを再インストールしたり、数十台あるNW機器のコンフィグをコンソールで接続して修正したり、巨大な毛糸玉と化したサーバラックを一つ一つ解き、また数十台あるサーバとNW機器の間を数百本あるLANケーブルで接続し、再び巨大な毛糸玉を再構築するのだ。

 それだけではなく、このプロジェクトは炎上プロジェクトらしく、テスト工程に入っても仕様が決定していなかった。仕様が変わるとテスト環境も変わる。「仕様変わったから環境こうやって変えて。来週月曜日にはテストできるようにしてね(今は金曜日夕方)」なんて普通にあった。その度に休日出勤して、丹精込めて作った環境を再びバラバラにするのだった。ここは賽の河原か。折角構築した環境も、すぐに鬼によって粉砕される。それを分かっていながらも電車に乗って研究所に行き、残業しながら石を積んで帰って寝るだけの生活が数ヶ月続いた。

 お金があれば。何らかの仮想環境が使えれば。そのどちらかが叶えば、こんなしょーもない肉体労働をする必要なんてなかった。その歪みを僕が一身に受けているようなものなので、この時期は本当にフラストレーションが溜まっていった。

 数ヶ月経つと環境構築作業もだいぶ落ち着き、すわ、我が世の春到来か? と思っていたのだが、間髪なく絶賛大炎上中ロングラン公演大決定のテスト業務にぶち込まれる。僕が投入されたのは、その中でも性能試験、つまり、システムが仕様通りのスループットを満たせるかどうかをテストするチームだ。

 HTTPであれば負荷試験ツールなんて選びきれないほど世の中にあるのだが、前述した通りこのシステムは独自プロトコルを喋るので、それに対応する負荷ツールは世の中に存在しない。じゃあどうするの? と思った僕に手渡されたのは、開発チーム内で製造された独自の負荷試験ツールと、Excelで数千行にも及ぶ手作りのマニュアルだった。

 地獄だった。当然、負荷試験ツールはまともにテストされてないしマニュアルも極めて難解、システム自体も絶賛テスト中(炎上)、そしてテスト環境は賽の河原の石積みの果てに知能が5歳児並みに低下した僕たちが作ったのであちこちおかしい。よって、負荷試験はうまくいかない。うまくいかなくても、負荷試験ツールがおかしいのかシステムがおかしいのかテスト環境がおかしいのかツールの使い方がおかしいのかマニュアルがおかしいのか頭おかしいのか切り分けできないのだ。

 極め付けは、前述した通りテスト環境が限られているクセに、テスト工程が炎上しているため、どのテスト環境も使用予定が埋まっていて使えないこと。じゃあどうするかというと、みんなが残業終わって帰宅する午後10時から、みんなが出社する午前10時までの間、テスト環境をこっそり使わさせていただくのだ。2010年代も終盤になって、ただ「サーバが足りないから」という理由で、人間の方が徹夜するのだ。眠気を通り越して吐きそうになりながら、コンソール画面と向き合い続けた。

 「テスト終わったので使っていただいて大丈夫です!」と連絡を受けてさぁテストするぞと思ったら、テスト環境が滅茶苦茶になって崩壊していたこともあった。「次使う人のことも考えて使いましょう」という小学生でも出来る事が出来ない50代男児がいる事に驚いたのだが、この人も度重なる残業で幼児退行してしまったのだろうか。この時は孤立無援手探りでのテスト環境再構築で10時間を費やした。

 そんな古き悪きプロジェクトで過ごして約1年、気がつけば意味不明なプロジェクトで馬車馬のようにこき使われた思い出しかないし、エンジニアとしてのスキルもほぼ上がっていない。L2以下のレイヤのNW構築とかWiresharkで謎プロトコルの読解とかしかしてきてないし。もしかして、このまま自分はこんな調子で使い潰されるのでは? このままスキルが上がらない肉体労働ばかりさせられて、気付いた時には市場価値もないし、仕事が嫌だから転職する、ということもできなくなるのでは? という恐怖が沸き起こり、転職に大きく気持ちが傾くことになった。

 その他にも、会社の先行きに不安があったり、会社の人事方針に不信感を持ったり、労働組合が強すぎて逆に働きにくくなったり、色々あったが割愛。

転職して

 適当に2ヶ月ぐらい転職活動をしていた。テスト工程が落ち着いた辺りから業務をバレない程度にサボタージュし始め、定時に帰って面接に通ったりしていた。4社受けて最終的に2社から内定をいただいた。

転職先について

 今流行りのWeb系企業。正直、自分の実力では十分すぎるくらいの地位の会社だと思う。期待通りの実績を出せるか今でも不安。

働き方

 前職に比べて非常に働きやすい。裁量労働制なのだが、ひたすら残業して成果を上げろというプレッシャーは一切なく、むしろ定時内に帰ることを推奨される。業務量もそこまで多いわけではなく、のんびりと働いて、空いた時間で学習してさらに業務に生かすという、ポジティブサイクルを回すことができる会社だなと感じる。

 また、前職であったノー残業デーが無いのも非常にありがたい。好きな日に残業が出来るので、プライベートの時間を組み立てやすい。残業時間にも制限がないので、元気がある日に気兼ねなくバーストして働くことも出来る。前職では一々、上司と労働組合の顔色を伺う必要があった。

 そもそも、前職とは違い、自分達の手でプロダクトの仕様策定・設計・開発を行っているので、その開発の過程で忙しくなってしまっても、それは自分達の設計だったり開発のスキルがイケてないからということなので、「残業しなければならない」という事に対して納得感がある。前職ではPMの無能さのツケを払うために残業しているようなものだった。

 そういえば、前職では炎上したプロジェクトで残業フェスティバル真っ只中となったある日、残業させてくださいと上司(PM)に言ったら、またか、みたいな顔と同時に「まろみくん、稼ぐねぇ〜〜〜〜」と言われたのを多分一生忘れないと思う。誰のせいでこんな残業する羽目になったんでしょうね????

給料

 変わらない。給料upを目指して転職したわけではないので特に文句はない。

福利厚生

 下がった。有給日数は半分程度になったし、家賃補助も無くなったので、前職勤務時よりも質の下がる家に住まざるを得ず、QoLがかなり下がっている。無理のない範囲で成果を出して昇給し、借家をランクアップさせたい。

飲み物

 無料でコーヒーやお茶やコーンポタージュやコンソメスープが出てくるドリンクベンダーがあって最the高。

総合

 良い。

その他

SIerはやめとけ」という言説について

 よくSIerに就職をキメる新卒に向かって、哀れんだり、嘲ったりする風潮をネット上では感じるのだけど、新卒でSIerは別に悪くない選択肢じゃないのと思う。どんなレベルの新卒でもかなりしっかり教育してくれるし、そこで働くことである程度はスキルアップ出来ると思う。

 逆に、キラキラWeb系企業は即戦力を求める傾向にあり、ある程度のエンジニアリングスキルがなければマトモな会社には入れない。そうでなくても入れる会社は、そうでない程度のスキルの人が集まっている会社なので、低スキルを勇気と根性でカバーしてる運用のところが多いんじゃないかなぁと思う。お手本となる高スキル者が居ないわけだから。

 文句があって結局は転職することになったけど、初手SIerはまぁ悪くない選択だったんじゃないかと思う。

転職することについて

 新卒時にはこのまま終身雇用される気マンマンだったけど、レガシープロジェクトに入れられてから、ずっとぶら下がり続けるのはリスキーな選択だよなぁと強く感じるようになった。クソみたいな仕事ばかり回されて「もう辞めてやる!」と思っても、その時には特に市場価値のない冴えないオッサンになっている可能性が非常に高いし、そもそも大手SIerと言っても、定年時まで倒産せずに存続している保証なんてどこにもない。

 どの会社もそうで、数年後の未来は何も保証されていない。自然界と同じく、市場でも時代の変化に適応できた企業が生き残ると思うんだけど、じゃあどの企業が適応力があるのかと言われると外部からは全く分からないし、そもそも、変化の激しい時代を数十年切り抜けられる企業体ってほとんどないのでは? という気がする。自分としては、適応力を会社に求めるのではなく、自分が環境に適応できるようにせっせとスキルを身につけ、職を転々と出来る方が一番セーフティな気がする。これはどこの業界でもそうだと思う。

 じゃあ今の会社もいつか辞めるのかと言われると、そうではない。大事なのは職を転々とすることではなくて、職を転々としても生きていけるだけのスキルを身につけること。