打ち首こくまろ

限界オタクの最終処分場

ヤバイTシャツ屋さん「Galaxy of the tank-top」が超エモい傑作ですよと言いたいだけ

 ”ヤバイTシャツ屋さん”という名前からして「あっなんか面白い系の曲やってるバンドなんだな」と直感するんだけど、本当にその通りでヤバイTシャツ屋さんの曲には基本的に何のメッセージ性も無い。

床一面に並べて タンスを一面に並べて
その上で踊るんや それがそう DANCE ON タンスや
何やこの歌の世界観 何歌ってもええってもんとちゃう
って分かってるけどそれでも歌う
YES! This is "DANCE ON タンス"や

タンスの上で さあ DANCE and DANCE
踊れ DANCE ON TANSU and DANCE ON TANSU
なんやこれ タンスの上で さあ DANCE and DANCE
踊れ DANCE ON TANSU and DANCE ON TANSU

 「DANCE ON TANSU」と歌いだけのようにしか思えないサビと、そこまで持っていくために用意された「タンスを一面に並べ」るという強引な設定。本当に中身の無い。しかし、語感重視で組み立てられたサビは一度聴いたら忘れられなくなるほどキャッチーで、ライブではここをみんなで歌いながら飛び跳ねるんだろうなぁと想像できる。自分たちの歌ってることの意味不明さに「なんやこれ」とツッコみながら、頭空っぽにして飛び跳ねるんだ。

 ちなみにこの「DANSU ON TANSU」はアルバムの3曲目に収録されているが、同アルバムの「メロコアバンドのアルバムの3曲目ぐらいによく収録されてる感じの曲」では以下のように歌われている。

メロコアのアルバムの3曲目ぐらいに
よく収録されてる感じの曲
メロコアのアルバムの3曲目ぐらいの
ライブでお客さんを無理やり飛ばせる曲 とべー

 「他の奴ののあるあるを言いながら自分もそのあるあるの中に入ってる」という関西人が良くやりがちなボケ、それをアーティストが心血注いで完成させるアルバムの中でやってしまうのがヤバイTシャツ屋さんというバンドだ。


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 ヤバイTシャツ屋さんメロコアバンドだ。メロコアとはメロディックなハードコアという意味だ。メロディックなハードコアって何なんだ。よくわからん。まぁ要はハードコアなんだ。

 ヤバイTシャツ屋さんメロコアバンドだ。本人たちがそう自称しているんだから間違いない。「Hi-STANDARD」や「10-FEET」や「ELLEGARDEN」みたいな硬派な名前を全然していないがメロコアバンドだし、CDのジャケットはどれも脱力系だがメロコアバンドだし、「ピアノロックバンド」という名前のシングルを出しているがメロコアバンドだし、公式HPで「ガールズテクノポップユニット」と書かれていてもメロコアバンドだし、それを真に受けたテレビスタッフがヤバイTシャツ屋さんを「3人組テクノポップユニット」と地上波で紹介してしまったがそれでもメロコアバンドだ。

 それでも「ヤバイTシャツ屋さんメロコアバンド」ということがなかなか伝わらなかったのか、赤いシールの白抜き文字で「※バンドです」と大きく注意書きが貼られた状態で全国に流通したのが彼らの2ndフルアルバム、「Galaxy of the tank-top」だ。

 ヤバイTシャツ屋さんの持ち味である「徹底的にバカバカしい歌詞」と「意外とちゃんとしている演奏」はもちろん健在。しかし、メジャーデビューから1年経過してのこのアルバムではそんなバカバカしさだけではない、新たな一面を見せている。

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 収録曲の中でも「ハッピーウェディング前ソング」と「ヤバみ」をまず取り上げたい。この2枚はアルバムに先行して発売されたシングルなのだが、「ハッピーウェディング前ソング」の方はTwitterでもかなりバズってた曲だったと思う。基本的にはカップルを祝福するような曲なのだが...

愛とか 恋とか そういうの すっとばして 六感で動いてみたらええやん
ちょっとだけ冷やかしてみてもいいかな?

キッス! キッス! キッス! キッス! キッス! キッス! キッス!
からの入籍! 入籍! 入籍! 入籍! 入籍! 入籍!!!!!

 カップルに対してキスしろと囃し立てるだけではなく、入籍までしろと迫る。さらに囃し立てるだけ囃し立てて、この後では「きっと2年以内に別れる」と言ってしまうなど、あんまりにも無責任な内容だ。結婚ってそういうもんじゃないぞ。

 だけど、この底抜けに明るい曲に乗せて囃し立てられれば、なんだか結婚って軽率にしてしまってもいいもののように思えてきてしまう。お互いが好きだったらとりあえず結婚! 一緒に暮らしたくなったらとりあえず結婚! お互いが幸せなんだったらもうそんなノリでいいんじゃないか。好きな人と一緒に生きていくのに、小賢しい計算や駆け引きなんて本来不要なんだ。あれこれ悩むよりもまず入籍! すれば道は開ける! この曲はなんだかそんな気分にさせてくれる。僕も直感で動いて、ノリで結婚してみよう。そんな相手いねーよ! バーーーーーーーーーカ!!!!!!

 まぁとにかくこの曲のこの部分の歌詞のインパクトがすごくて、僕の観測範囲内でも「推しカプを軽率に結婚させたい人のテーマソング」として紹介している人が複数いたし、実際僕もした。さらにアルバム発売にあたってのインタビューでも、「結婚式でこの曲を流している人がいるらしい」という衝撃的な報告がされている。マジか。同じくキスせよと囃し立てる「てんとう虫のサンバ」の後継曲になるのか。大丈夫か。余興で歌うのか。「きっと2年以内に別れる」とか歌うのか。

 とにかくそれだけ、結婚したい人にも結婚させたい人にも、多くの人の心に刺さったのだろう。「あるあるネタ」を駆使してリスナーを共感させる術には既に長けていたヤバイTシャツ屋さんだったが、共感からもう一歩進んで、聴く人の心を動かすような歌詞を書けるようになってしまった。これは本当に凄いことですよ。

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 そしてもう一方の「ヤバみ」。メジャーデビュー後初のシングル曲「ヤバみ」は演奏がタイトで本当にカッコいいんだけど、前半に英詞で歌われているのは「スピリタスを鼻から吸うとヤバい」みたいな内容で相変わらず無意味。いつもの感じかと安心するところだが、曲の後半のパンチラインが凄い。

「歌詞に意味が無いと!」「説得力が無い!」
もうそんな時代じゃない!?
「理解できないものばっかり流行っていく!!!」
いつまで置いてかれちゃってんの

 ヤバイTシャツ屋さんは主にその歌詞の内容の無さから賛否両論の評価を受けがちなバンドではある。メジャーデビューするに当たってもそうした周囲の評価が耳に入ったのであろうが、この曲ではその声を真正面から受け止め、さらにそれに迎合するのではなく明確に中指を立てている。「お前らからなんと言われようと俺たちは自分たちの信念を貫く」という姿勢、これをロックと言わず何というのか。素直にかっこいい。そしてアルバムでこの曲の後に続くのが前述の「DANCE ON TANSU」だ。宣言通りの無意味な歌詞。

 歌詞の進化ばかりに注目しているが、音楽的な幅もさらに広がっている。「ドローン買ったのに」はまさかのフォークソングになっている。メロコアバンドなのに。しかし、「労働基準法ギリギリまで働いてドローンを買ったのに、航空法が改正されて飛ばせなくなった」という、悲しすぎてやるせなくてもう笑うしかない歌詞を、このフォークサウンドが効果的に引き立てている。淡々としたアコースティックギターとパーカッションの音、「あーあ」というコーラスが、何とも言えない哀愁を醸し出している名曲だ。

労働基準の法をギリやけど 守ったもんだから
改正された航空の方の法も... 法を守らなきゃ...

 他にも、バンド史上最もヘヴィでラウドな「Tank-top in your heart」、プログレのように変幻自在な「ベストジーニスト賞」、クッソおしゃれで偏差値が高そうなアレンジがされている「眠いオブザイヤー受賞」など、収録されている曲の幅はかなり広い。通して聴いてもメロコアサウンドばかりで耳が疲れるなんてことはないし、似たような曲も一つとしてない。曲ごとに新たな引き出しを見せつけるこのアルバムを聴けば、「若者受けを狙った中身のないクソバンド」なんて事は口が裂けても言えなくなるはずだ。

 さて、バラエティに富んだ笑いとバカバカしさが詰まった「Galaxy of the tank-top」だが、その中に一曲、異彩を放つ曲がある。

 アルバム終盤に収録されている「サークルバンドに光を」。

 この曲は笑える歌詞ではないし、メロディも直球のメロコア、歌われているのも「辛いことあるけど夢に向かって頑張っていこう」という内容で、ともすれば超平凡な応援歌と捉えかねない曲になっている。

いつだって自分のペースで やりたいことだけやりたいって
わがままなこと言ったって 駄目やって分かってるけど
やっぱりまだやめられない 好きなように 好きなだけ 歌うだけ
難しいことは分からんし 分からんままのがおもろいし
楽しいことばっかりやのに 平凡に悩んでる
それでいい 今はそれでいい いつまでもネクストブレイクで

 僕はあらゆる音楽のジャンルの中で「応援歌」が一番嫌いだ。だって、頑張れ頑張れって歌ってこっちを励ましてくる奴はみんなメジャーデビューして成功してる奴らで、そんな悩みもないような超幸せな奴らに励まされるって普通に考えてクソムカつく。そもそも、こっちの事情も知らないのに勝手に励ましてくんなって感じだ。

 だけど、「サークルバンドに光を」は違った。普通に励まされたし、普通に泣いた。最近涙腺がガバガバなことを差し引いても泣いた。何故だろう。そこらの凡百の応援歌に比べて「サークルバンドに光を」が一線を画しているのは、バンドがこれまで歩んできた歴史に裏打ちされた「圧倒的な説得力」だ、

身内すら盛り上がっていない
ガラガラの客席 冷たい視線
レスポンスのない虚しい時間
共演者には馬鹿にされていた
何が誰が正しいとか 分からへんけど
悔しい思いは忘れへんようにしような

 

誰でも使える言葉を使って誰にも歌えん歌を歌う
ノリと勢いだけ そんなことないと 分かる人は分かってるはず
自分で自分を肯定してやっと保っている
不安になってもええけど最後は笑っていようや

 ヤバイTシャツ屋さんは明らかな色物バンドだ。僕は彼らのインタビュー記事とかを漁ってたりとかしてないので過去のことについてはあまり詳しくないのだが、それでも初期の頃は今以上に冷たい視線に囲まれていたであろう事は容易に想像できる。大阪の小さなライブハウスで活動していた時には、他のバンドやそのバンドのファンからどのように見られていたのか。事実、初期のこのバンドは頻繁に活動休止を繰り返し、オリジナルメンバーはGt/Voのこやまたくや以外全員脱退している。

 「笑える曲」をやってるから軽薄に思われがちだけど、「笑い」を中途半端に扱ってしまうと、滑るし、寒いし、とても聴いていられない曲になる。だから、ヤバイTシャツ屋さんは曲作りに対して非常にストイックだ。周りの人々に笑われながらも、「誰でも使える言葉を使って誰にも歌えん歌を歌う」という信念を表現し続けたのがヤバイTシャツ屋さんの歴史だ。

 だからこの曲には説得力がある。誰にも理解されなかった苦難の時期を赤裸々に綴った歌詞は何一つ嘘偽りのないリアルだし、だからそれに勝手に自分を重ねてしまう。そんな彼らが「もうやめられへんところまで来てしまいました」なんて歌っている所は本当にエモくなってしまう。今はまだ報われなくても、好きなだけやりたいだけ突っ走ってみたい。そんな気分になる。

 「サークルバンドに光を」は、かつて誰からも顧みられなかったバンドによる、今誰からも理解されない人達に送られるテーマソングであり、そっと差し伸べられる手だ。同じ気持ちを味わった人間同士だから、その差し伸べられた手を取ってみようという気分にさせられる。"ヤバイTシャツ屋さん"というバンドに求められる要素ではないのかもしれない。だけど、この曲に救われる人はこの世界に数多くいるはずだ。他にも面白い曲はいっぱいあるけど、この曲がこのアルバムの代表曲だと胸を張って言いたい。「サークルバンドに光を」は、このアルバムを締めくくるのにふさわしい名曲中の名曲だ。

 ...しかし、このアルバムを締めくくるのは次の曲。

肩幅が広い人の方が肩幅が狭い人よりも発言に説得力が増す
肩幅が広い人の方が肩幅が狭い人よりもみんなから支持される

 肩幅が広い人に対するコンプレックスと偏見を剥き出しにした曲が、亀田誠治プロデュースのサウンドで美しく昇華され、どんな表情をしたらいいのかわからないまま終わる。なんだこのアルバムは。


 というわけで、熱さとエモさと笑いと涙がジェットコースターのように駆け巡る名作アルバム、「Galaxy of the tank-top」は全国の店舗やAmazonとかで好評発売中です。いや本当に、普段ロックとか聴かない人も聴いてほしい。実際僕は最近アイマスの曲しか聴いてなかったしCDアルバム買うなんて数年ぶりだったけど、期待を大きく上回る傑作アルバムでした。

 損はさせません。どうか手にとって聴いてみてください。