こんな時だからフリースタイルダンジョンを勧めたい
フリースタイルダンジョンの進行役を務めるUZIが麻薬で逮捕。衝撃的なニュースでした。
すでに収録されている分はUZI出演部分をカットして放送、その後は代役を立てて放送されることが決まり一安心...でしたが、"ラスボス"を務める般若が司会のZeebraをラップでdisる等、状況はあまりよろしくありません。
ですが、数ヶ月前からフリースタイルダンジョンにハマっている者として、このまま番組が終わってしまうのは悲しいものですし、このニュースによって「やっぱHIPHOP界隈ってそんなもん」と思われてしまうのも悲しいです。まぁHIPHOP界隈のことなんて正直あまりわからないですが、テレビで見ている限り、「HIPHOPは不良とチンピラのもの」という認識はだんだんと過去のものになりつつある気がします。
その中でもMCバトルは異常な進化を続けていて、側から見ていると「能力者同士の異次元バトル」のような様相を呈しています。本当、言葉を操る能力者同士が、自分の考えの及ばないような領域で戦っているんですよ。HIPHOPに興味なくても絶対面白いですよ。これまでHIPHOPなんてB-RAPハイスクールでしか知らなかった僕がハマってるんだから間違いない。
本当は紹介したいバトルが10戦ぐらいあるのですが、ここでは3戦に絞って、フリースタイルダンジョンとMCバトルの面白さについて解説していきたいです。ほんと面白いですよ。
CHICO CARLITO vs R-指定
初期のベストバウトですね。ここまでモンスター達を相手に中々勝ち進むことの出来なかったチャレンジャーの中で、CHICO CARLITOは圧倒的な力を見せつけてモンスター達をなぎ倒していきました。そして、前人未到の4th Stageまでたどり着き、R-指定をバトルフィールドに引きずり出します。
R-指定はラップバトルの全国大会「UMB」を3連覇した最強のフリースタイラー。ですが、その3連覇を最後にMCバトルから引退。これは引退から約1年ぶりの復帰戦となりました。
CHICO CARLITO vs R-指定
— HIPHOP ラップ MCバトル垢 (@MCBattleHIPHOP1) 2017年6月16日
判定 0-5 クリティカルヒット
勝者 R指定
チャレンジャーからモンスターになりDungeon MonstersとしてMステに出演したCHICOのチャレンジャー時代!Rがバケモノ級に強い。#フリースタイルダンジョン#Mステ pic.twitter.com/MsxLSqtGi7
決める最強のロン毛とロン毛
それ出来ないなら本でも読んで
本命CHICO 乗っかるヒップホップ
最初で最後の出会いだぜ say hello もしくはグッバイ
正解などないぜ でもこれがアンサーになるか
最初で最後どうのこうの言うよりも
まずカマしてみてよフロウ
いきなり「ロン毛とロン毛」「本でも読んで」で7文字の高度な韻を踏んでいますが、実はこれはオリジナルな韻ではありません。
この曲の2:40からの「交錯する本音と本音 出来なきゃお家で本でも読んで」という部分が元ネタです。このように、他の曲やバトルのリリックを引用する行為を「サンプリング」と呼びます。
この一節は度々サンプリングされる超有名なものなのですが、それをかつての最強フリースタイラーを引きずり出した場で、「決める最強のロン毛とロン毛」と改変した上でサンプリングするのだから、客席が沸かないわけがありません。試合開始一発目がこれだったら、これから先どれだけすごいバトルになるんだろう、と。
先攻のCHICOの先制パンチは強烈でしたが、久々の実戦のR-指定の第一声もかなりエグいものになりました。
4連覇に高まってるぜ
でもそのロン毛は絡まってるぜ?
空回ってるスキルは要らねえ
正解不正解そんなもんは知らねえ
「こいつを倒せば前人未到」?
「よく頑張った感動した」前自民党総裁 まるで小泉
こいつぶっ壊し 立つぜ懲りずにトップに
末恐ろしいほどの韻の連打! たった8小説の間に4組もの韻を踏むという超絶スキルを見せつけます。「ロン毛」の話も「前人未到」の話もバトル直前やバトル中に出てきたワードなので、これも全部即興な訳ですよ。どんな頭してるんだ。
そしてR-指定のエグいところは、韻やワードの連想によって話題を次々に切り替えていくところ。「前人未到」から韻を辿って「前自民党総裁小泉」の話になり、「自民党をぶっ壊す」の連想から「こいつぶっ壊し」。ここまででも十分凄いですが更に韻を踏んで「立つぜ懲りずにトップに」。つまり最終的に、この舞台が彼自身の復帰戦であることを踏まえた、R-指定の高らかな復活宣言となっているのです。ちなみに、前自民党総裁は谷垣禎一氏でありこのリリックは誤りですが、カッコイイので許されます。
対するCHICOの2バース目ですが、全体的にR-指定の言っていることの繰り返しになってしまい、ビートには乗っているもののかなり苦しい印象です。最終的に言葉に詰まってしまったところを、R-指定は見逃しませんでした。
詰まっちゃって立ち往生
俺ならマイクロフォンの末期症状でも
気づけば後ろにチャンピオンロード
まるでロード トラブル起こすか?
高橋三舟のような関係
ヒビが入るより日々ライムするぜ
今見せるぜ このkick it
まるでお前俺が出て来た事が危機
言葉が詰まったところを捕まえて「立ち往生」「マイクロフォン」「末期症状」「チャンピオンロード」と怒涛のライミング。「気づけば後ろにチャンピオンロード」はR-指定の歩んできた歴史を思い起こさせる一節です。
そして「ロード」から「虎舞竜」を連想しての芸能ネタに移行してからの「ヒビが入るより日々ライムするぜ」というパンチラインまでの流れが美しすぎます。何度も言いますがこれ即興なんですよね。
このバトルは、HIPHOPシーンに付きまといがちな「ワルの文化」的な要素が一切なく、ひたすら「韻の上手さ」「フローの気持ちよさ」「ディスの的確さ」「ユーモア」といったテクニカルな要素で構成されています。要は頭脳戦です。HIPHOPに全く詳しくなくても、見ただけで「ヤバい」と分かるようなものにまで進化を続けているのが今のMCバトルシーンです。
D96 vs FORK
R-指定は昨年の8月をもってモンスターを卒業したので、通常回では彼の姿を見ることはできません。
今のモンスター達は全員2代目となるのですが、2代目モンスターの中でも別格の存在となるのが、"ライム至上主義"を掲げるラッパー、FORKでしょう。
モンスターとなって数々のチャレンジャーを返り討ちにし未だに無敗ですが、その中でも最もヤバい1戦を。
D96 vs FORK
— HIPHOP (@FREESTYLE_hop) 2017年12月12日
D96の韻とフロウが刺さり良い調子だが、2バース目のFORKがヤバすぎる。 pic.twitter.com/xRAXCDZr2y
D96は若手の中でも有望株のラッパーであり、そのフローも中々悪くはありません。対するFORKはフローのほとんど無い語り口調。しかしそれでも圧巻なのがFORKの2バース目です。
全く入って来ねぇよ こいつの話
客は棒立ち まるでカカシ
見てるとなんだか俺の方まで悲しい
お前はまだまだ剥けてない蛹
形より中身 人は鏡 見据える高み
ヘッズは興奮して前屈みだよ
見た目じゃねぇ 俺は中身がオリジナル
俺が勝ってまた深夜2時になるぜ
8小説のほぼ全てを「ああい」の韻で網羅。韻はスノーボードで言うところのトリック、けん玉で言うところの技みたいなもので、つまり連続で決められるとすげぇってなるんです。動画を見ても、韻を踏んでいくたびに客席が高まっていく様子がわかります。
そして最後、腕時計を見ながら「俺が勝ってまた深夜2時になる」。フリースタイルダンジョンが深夜1:30〜2:00の番組であること、FORKがモンスターになってから未だ無敗であることを利用したパンチラインです。客席からも「ヤバいヤバい」という声が溢れるほど、えげつないぐらいカッコイイです。韻にこだわるだけでなく、「絶対王者感」の演出が巧みなのもFORKの凄い所です。
NAIKA MC vs FORK
ラップは韻を踏めばいいのか? と言われるとそうでもありません。韻を重視したバトルスタイルもあれば、相手との対話を重視したスタイルもあります。そのような異なるスタイル同士のバトルを「スタイルウォーズ」なんて呼んだりします。ここではその中から一つ。
FORK VS NAIKA MC
— フリースタイルダンジョン (@jOWX6niqWq7NfoQ) 2017年3月8日
FORKの押韻とNAIKAのパンチラインがよく光ってるバチバチのバトル pic.twitter.com/L09iDNq6SF
ようNAIKA お前に足りねえのはライムだ
それを教えに来た FORKレペゼンICEBAHN
これはルールじゃねえ HIPHOPマナーだ
お前は今まで群馬で何を学んだ?
そのマナーを学ぼうとしねえ奴は
マナーモードみたく黙って ブルブル震えとけ ボケ
邪魔なんだよ下がれチャレンジャー
俺はお前が超えられる壁じゃねえんだよ
「韻にこだわる」という姿勢を見せながら固く韻を踏んでいくFORK。最後の「チャレンジャー」「壁じゃねえんだ」は一見韻では無いですがそれでも踏んでいます。こうした高難易度の韻をさりげなく踏むことで、自身のライミングスキルの高さを示しています。
そして対するNAIKA MCですが、
え? 壁だと思ったこと一度だってねぇけど?
え~何この人? 韻がどうこう
はぁ?死ねよテメーおい!
別に気にしてないよ韻を踏むんだろ
ひたすら踏んでくれよ
踏まなくてもお前の10年後によ
韻踏まなくてもテッペン取ったぞ おい
一切韻を踏みません。NAIKA MCの持ち味は韻を無視し、ユーモアと熱さだけで試合を強引に持っていくストロングスタイルにあります。実際このリリックの通り、彼はこのスタイルで2016年のUMBチャンピオンに輝いています。
韻を踏むのはラップの重要な要素。ですがそれだけで勝敗は決まりません。重要なのは「どちらがヤバいラップをできるか」。正直FORKもNAIKA MCも最早ラップかどうか若干怪しい部分はあるのですが、カッコよければいいんです。
最後に
本当はDOTAMA vs ACEという抱腹絶倒かつエゲツないバトルも紹介したいのですがここでは割愛。興味があれば調べてみてください。
いやもう本当に面白いですよMCバトル。一回見てもすげぇってなるし、バトル中のリリックを紐解いてみてもすげぇってなります。HIPHOPに対するイメージだけで避けられるのはちょっと勿体ないのでこの記事を書かせていただきました。
それだけに今回の事件は残念ですね。フリースタイルダンジョンはMCバトルブームの火付け役だっただけに... この勢いを止めないようなんとかしてもらいたいものですが。