打ち首こくまろ

限界オタクの最終処分場

ミリシタ「愛の旋律」事件を考える

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 今年のミリシタも1月に大変な事が起こってしまった。1/19(火)に開催予定だった新曲イベント「愛の旋律」が、開催1時間前に急遽中止となった。

 3年半のサービス開始以来初めての事態であり、驚きや怒りというよりは、動揺に近い受け止められ方をしたと思う。中止宣言から30時間以上経った今でも詳細な説明はされることはなく、Twitter上では早急に原因を明らかにするよう求める声、また原因についての憶測が飛び交っている状況となっている。

 ※追記: 1/21(木)10:30に、新曲について「他社権利既存楽曲に類似している部分があることが判明」したことから中止をしたと発表があった。

 そこに、本日15時にゲーム内に実装されたテキストが火に油を注ぐ格好となった。  

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 ミリシタ内の「ブログ」にイベント中止について謝罪するテキストが実装されたのだが、これを読んで「運営の代わりにアイドルに謝罪させている」として激怒する人が続出。それを受けて雑なまとめ記事も出てくるなど、あまり良くない状況となっている。

 すっかり炎上ウォッチャーと化してしまった自分なので、普段プレイしているミリシタで起こってしまった炎上についてもしっかり考察していこうと思う。大きく分けて二つのことを考えていきたい。

  • イベント中止の原因が明かされないのは正しいのだろうか?
  • 「ブログ」にイベント中止についてのテキストを実装したのは正しいのだろうか?

1. イベント中止の原因が明かされないのは正しいのだろうか?

 個人的な結論としては、一般論として速やかに原因を公開するべきだが、今回のケースの場合そうはいかないだろうというものになる。

 ユーザとしては楽しみにしていたイベントが急遽中止になったのだし、中には事前に数万円分課金したり、イベント開催期間中丸々有給を取得した猛者もいるだろう。その予定が狂わされてしまったのだから、そうせざるを得なかった事情と、今後の見通しについて、運営は速やかに整理して明らかにしなければならない。そうしなければ、ユーザの怒りは制御不能なものになってしまう。基本的に、インシデント発生時にはユーザ対応が最優先だ。

 では何故、30時間以上経った今も原因が明らかにされないのだろうか? それは、この件に関してユーザ以上に優先するべきステークホルダーが存在するからに他ならないだろう。

 現時点で原因については明らかされてはいないが、考えられる原因について整理していきたい。まず、バグなどの技術的問題が発生したという訳ではないだろう。この形式のイベントは今まで3年半に渡って開催され続けてきており、新たにバグが混入した可能性は極めて低い。仮にそうだとしても、その場合は不具合を修正してから開催すればいいので、「開催中止」という表現はされないだろう。

 それ以外の考えられる原因は何だろうか? イベントで実装されるものとして、曲・MV・カードイラスト・新規衣装・イベントテキスト・そしてテキストのボイスが挙げられる。これらのいずれかに問題があったはずだ。そして、誤植やイラストの書き間違いなどであれば後から修正する事もできるはずなので、そうする事も出来ない重大な問題、つまりこのまま実装した場合ミリシタの運営に大きな影響が出るレベルの問題が発覚したのだと考えられる。具体的には、

  • イベントの実装内容に、他者の権利を侵害する(あるいはその可能性のある)ものが含まれていた
  • イベントの実装内容が、App StoreGoogle Playなどの規約に反するものが含まれていると警告された
  • キャストの不祥事により、コンプライアンス上実装する事ができなくなった

 などだろうか。

 このうち、2番目に関してはあまり考えられない。「これから実装される内容」について、AppleGoogleがレビューを行なって差し止める、というケースは聞いた事がない。3番目に関しても、24時間以上経っても何の報道もないことや、その後のキャストや公式の対応から見ても、可能性は限りなく低いだろう*1。残るのは他者の権利を侵害する内容が含まれていたケースだ。

 仮にそうだった場合について考えてみる。この場合、最優先されるべきなのはミリシタのユーザーよりも権利侵害された被害者へのケアであり、ユーザへの状況説明はその後にならざるを得ない。もし仮に被害者との今後の方針についてすり合わせる前にユーザへの説明をしてしまった場合、その中に被害者の意にそぐわない文面が含まれていたりすると、被害者の感情を大きく損ねるリスクがある。それが拗れてしまった場合、話し合いで決着がつかず法的手段を執られる恐れまである。

 こうなった時、裁判にかかるコストや敗訴した際のリスク、そもそも訴訟された際の風評影響が計り知れないものになり、影響としてもミリシタだけに留まらず、アイマスはおろかBNEI全体の問題になりかねない。そのリスクを最小限に抑えるために、ユーザよりも何よりも、被害者との話し合いを優先しなければならない。ミリシタ運営が置かれている状況は、この状況に近いのだと想像できる。

nameless-drifter.hatenablog.com

 ミリシタ運営の対応の遅さを、昨年発生した80連バグの対応の悪さと絡めて「あれから何も進歩していない」と批判する向きもある。確かに、あの事件における運営の対応はかなり酷かった。しかしあの件以降、不具合に関しては詳細に説明するようになり、補填も迅速に行うなど、インシデントに対する運営の姿勢は見違えるほど良くなったと感じている。

 今回の件も、補填についてはイベント中止宣言と同時に説明されており、また本日14:50にも、状況説明に時間を要する旨のお知らせが掲載されるなど、ユーザに対しては可能な限り誠実であろうという姿勢が見られる。現在の運営の姿勢としても、早い段階で状況説明を行いたいと考えていることだろう。時間はかかるだろうが、運営からの説明を待ちたいと思う。

 ただし、そのような状況であっても怒れるユーザが待ってくれるわけではないので、可能な限り早く全容を明らかにすることが必要不可欠だ。特に、ミリシタ感謝祭が1/23(土)に行われることを考えると、その前日までには何らかの説明が行われることが望ましい。

2. 「ブログ」にイベント中止についてのテキストを実装したのは正しいのだろうか?

 これも個人的な結論としては、運営としては自然に実装したのだろうが、恐らくするべきではなかった、となる。

 そもそものミリシタにおける「ブログ」について話しておくべきだろう。グリー版ミリオンライブではアイドル-プロデューサー間、あるいはアイドル-アイドル間のコミュニケーションしか描かれていなかったのに対して、ミリシタで実装された「ブログ」は、アイドルから作中世界のファンに向けたコミュニケーションを(片方向だけではあるが)表現している。

 イベント開始前には劇場での公演とそこでお披露目する新曲やユニットについて紹介し、イベント終了後にはファンに対する感謝の言葉とオフショットが掲載される。その他にも、SSRを手に入れると新しい衣装の自撮りだったり、周年イベント時には日毎の登場アイドルのリレー形式のブログだったり、リアルイベントの際にもそれとリンクした内容のブログが掲載されたりなどなど。

 とにかく、今まで描かれなかった「ファンに向けたアイドルの顔」を描いてきたのがミリシタにおける「ブログ」機能だった。

 さて、「愛の旋律」イベント開始前に、そのイベントの公演内容についてのブログが更新されてしまった。しかしイベントは中止となってしまい、作中世界でも新曲のお披露目はされない事になってしまった。ここで、ファンに向けて既に公演の開始予告をしていたアイドルが何のリアクションも取らなければ、キャラクターとしてかなり不自然な行動となってしまう。アイドルには何の責任もないが、楽しみにしていたファンに対してイベントの中止を謝罪するというのは極めて自然な行動だし、2020年には散々見てきた光景である。つまり、イベントの中止についてゲーム中のブログに掲載するのはコンセプト上正解であり、運営としても自然な流れでその実装を決めたのだろう。

 問題なのはその「ブログ」のコンセプトが全プレイヤーに共有されているとは言えないこと。上記のような「ファンに向けたアイドルの顔を見せる」というコンセプトは、普段からブログを読んでいれば感じ取れるものの、ゲーム中に明文化されているものではない。そのため、ブログの文面を読んで「アイドルが運営の代わりにプレイヤーに謝罪させている!」と受け止めてしまう人は決して少なくないだろう。特に「イベント中止」という前代未聞の事態に動揺している人が多い状況では尚更である。

 「ピンチはチャンス」という言葉がある。運営としてもこの事態になりつつも、イベントを楽しみにしていたプレイヤーに対して少し気の利いた対応をしたかった気持ちもあるのだろう。その気持ちは多くの人達に届いたと思うが、同時に少なくない人達を怒らせてしまった。ミリシタのゲーム性的に、ユーザの感情を課金に結びつけるビジネスモデルになっていると思うので、感情を損ねてしまうのは収益的にも痛手になってしまうだろう。個人的にはコンセプトを全うした良い対応だと思ったのだが、全体としてみるとどうやら失敗だったのかな...と感じる。

 インシデント対応の際に最も重要なのは当然ユーザの資産を守ることだが、その次はユーザの感情を損ねないことで、どんな場合でもこの原則は守らなければならないのだろう。何故なら、最初のインシデント発生時でユーザ感情は大きく損なわれており、そこから不手際が重なれば傷は修復不可能なほどに大きくなり、ユーザが離れていってしまうからだ。

 今回の場合、テキスト実装によって怒る人が出てくるくらいであれば、いっそイベント開始前のブログを削除してしまえば良かったのではと思う。その場合は誰も喜びやしないしが、怒る人もほとんど出てこなかったのではと思う。

 サービス運営にはサービス精神が欠かせない。しかしそれをどこでどのように発揮するかが大事で、特にインシデント発生時には慎重に慎重を重ねなければならないのだと感じた。ジャンルは異なるが自分もサービスの運営者の端くれではあるので、サービス運営の難しさについて改めて考えさせられる。

 

*1:正直、イベント中止発表直後に最初に頭によぎったのは「誰か大麻で捕まったか!?」だった

競馬賭博 第40回ジャパンカップ 予想編

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 とんでもないレースが開催されようとしてる。3頭目の無敗牡馬三冠馬、史上初の無敗牝馬三冠馬、そして5頭目牝馬三冠馬にして史上初の芝GI8勝馬東京競馬場で激突する。

 たった一度きりのレース。たった140秒程度の出来事。しかしそれは、競馬がこの国にある限り語り継がれる伝説になるに違いない。

 競馬を知らない人にはこの興奮が伝わらないかもしれない。しかしこれは数十年に一度の一大決戦なのは間違いない。競馬でこれに匹敵するぐらいの一大決戦として、1998年毎日王冠や1977年有馬記念のような大昔のレースが引き合いに出されるレベルなのだ。

 この記事では、そんな第40回ジャパンカップの予想をしていきたいと思う。基本的には自分がワクワクするために書いたのだが、読んでる人にもそのワクワクが伝われば幸いである。

三冠馬三頭の戦力分析

 実際の予想に入る前に、今回主役となる3頭の三冠馬について、それぞれの長所とウィークポイントについて分析していく。

アーモンドアイ

 牝馬三冠のタイトルが霞むくらいの実績を残してきた。前人未到の芝GI8勝。「2:20.6」という衝撃。このレースを勝てば、史上最多獲得賞金の記録も打ち立てる。これが彼女のラストラン。後輩三冠馬2頭を迎撃すると共に、不朽の伝説となることは出来るのか。

 アーモンドアイのベストパフォーマンスといえば、異次元のレコードタイムを叩き出した2018年ジャパンカップ、強力なライバルを全て薙ぎ倒し圧勝した2019年天皇賞(秋)で間違い無いだろう。どちらのレースでも史上最強級のパフォーマンスを見せた訳だが、2つのレースには共通点がある。それは超高速馬場であったこと、そしてスピードが極端に問われたレースであったこと。

 まず超高速馬場について。2018年ジャパンカップ当日の東京競馬場はとにかくスピードの出やすい馬場だった。例えば、8Rのオリエンタル賞は芝1800m2勝クラスのハンデ戦なのだが、このレースの勝ちタイムが1:44:7と、レコードタイムの0.5秒差にまで迫っている。他のレースも早いラップが連続して出たり好タイムが続出したりとしている状況で、東京競馬場にはこれまでの高速馬場とは一線を画す超高速馬場が出現していた。これは2019年天皇賞(秋)の当日も同様である。

 そして展開について。2018年ジャパンカップのラップタイム(200mごとの通過タイム)は以下のようになる。

 12.9 - 10.8 - 12.2 - 12.3 - 11.7 - 11.8 - 11.7 - 11.4 - 11.4 - 11.0 - 11.4 - 12.0

 普通、レースでは残り800〜600m地点からスパートを開始するのだが、このレースでは残り1400mの時点で11.7というかなり速いラップが記録されている。そのまま減速することなく直線まで突入しているため、このスピードについて行くことの出来ない馬は末脚を引き出す事なく脱落して行くシビアな展開となった。直線の末脚よりも、何よりもまずスピードについて行くことが第一に問われたレースだった。

 そして最後まで残った馬がキセキとアーモンドアイなのだが、アーモンドアイはゴール前200m地点でキセキをあっさり抜くとそのまま突き抜けて完勝。このスピードについて行くだけではなく、加速する余力まで残していた。この部分が、アーモンドアイが他馬と一線を画する部分である。

 このレースの後も、2019年天皇賞(秋)、2020年ヴィクトリアマイルと、超高速馬場のスピード勝負で他馬を圧倒する異次元の強さを見せ続けた。アーモンドアイは超高速馬場のスピード持久力戦で異次元の強さを発揮する馬なのだ。

 一方、その強みが発揮できないレースになると脆くなってしまう。顕著なのが2019年有馬記念。年末ということもありボコボコのタフな馬場で、しかも序盤からハイペースの厳しい展開。これではスピードよりも、馬場を掴むためのパワーや、直線に余力を残すためのスタミナの方が強く問われてしまう。このレースで、アーモンドアイは馬群に沈み9着、手も足も出なかった。

 稍重となった2020年安田記念でも、グランアレグリアから2.1/2馬身差の2着。グランアレグリアもまた歴史的怪物なのでそこは目を瞑るにせよ、インディチャンプやノームコアには1/2馬身差まで迫られた。そして前走の2020年天皇賞(秋)。この時の東京競馬場はまだ常識的な範囲の高速馬場。このレースには勝ちはしたが、中距離戦の実績がないフィエールマンやスピードが不安視されていたクロノジェネシスに際どく詰め寄られた。

 おそらく、スピード能力だけを見ればアーモンドアイが全世界競馬史上最強馬だろう。走りやすい馬場があり、スピードを生かせる展開になれば、歴史上のどんな馬でも太刀打ち出来ない。しかし、そこから少しでも外れてしまうと、パフォーマンスを相当落としてしまうのがアーモンドアイの弱みだ。パフォーマンスを落としてしまってもGI級の力がある所がアーモンドアイの凄いところなのだが、今回は三冠馬二頭が相手となり、これまでアーモンドアイが戦ってきた中で最も強力なライバルが立ち塞がる。

 さらに不幸なことに、現在の東京競馬場は超高速馬場ではない。最後の戦場は自分の不利なフィールド、そこで強敵相手に立ち向かうことになる。

コントレイル

 昨年夏に空に旅立ったディープインパクトの忘形見、「飛行機雲」の意味を持つ名を付けられたコントレイルが、父以来の無敗牡馬三冠を達成。この一大決戦を制し、父の正当後継者として覇を唱えるか。

 コントレイルのベストパフォーマンスの一つとしては2020年日本ダービーが挙がる。道中はスローペースで進み4コーナーから直線にかけてのスパート勝負、という東京競馬場の長距離レースではかなりスタンダードな展開になったのだが、直線半ばまでは持ったまま、サリオスが接近すると追い出されてすぐに抜け出す、そしてゴールでは手綱を緩めて3馬身差圧勝というレースっぷり。歴代ダービーの中でも間違いなく五指に入る圧勝劇だった。

 特筆すべきなのはそのサリオスの能力も非常に高いこと。毎日王冠を圧勝し、マイルCSも酷い騎乗で5着に食い込んでくるなど、古馬相手に互角以上のパフォーマンスを見せている。そのサリオスを一蹴したこのダービーのパフォーマンスには非常に高い価値がある。

 しかし注目すべきレースはもう一つある。それは2019年東京スポーツ杯2歳ステークス(GII)。GIIのレースなのだが、コントレイルという怪物の存在を世に知らしめたレースだ。この時の東京競馬場は超高速馬場だったが、勝ちタイムは1:44:5。2歳にしてコースレコードから0.2秒差のタイムを記録するという異次元のパフォーマンスだった。このレースを見て日本ダービー、あるいは三冠を予感した人も少なくないだろう。

 もう一つ見て欲しいのはこのレースのラップタイム。

 12.9 - 11.0 - 11.4 - 11.8 - 11.7 - 11.8 - 11.7 - 10.8 - 11.4

 スタートを除いたラップタイムに12秒台が一つもなく、切れ目のないスピードレース。距離こそ違うものの、アーモンドアイがベストパフォーマンスを記録した2018年ジャパンカップ などの展開に酷似している。この厳しいペースの中、コントレイルだけが10.8秒という強烈な末脚を使えた訳なので、この時点で類稀なるスピード能力を持っていたことが分かる。

 どうしてもダービーばかりがクローズアップされがちなのだが、自分としてはどうしてもこの東スポ杯の衝撃が忘れられない。ダービーも立派なレースだったが、東スポ杯の勝ちタイム、展開、パフォーマンスを見ると、このレースこそがコントレイルの真の姿なのではないだろうか。つまり、自分としてはコントレイルはアーモンドアイと同じタイプ、超高速馬場のスピード持久力戦で異次元の強さを発揮する馬だと考えている。

 一方、歴代の三冠馬は全て菊花賞を完勝してきたのだが、2020年菊花賞ではコントレイルは苦戦を強いられた。良馬場だが芝が荒れており高速ではない標準馬場の中、平均ペースのまま淡々とレースが進んでいく。残り700m地点でスパート開始となり、コントレイルが抜け出すかと思った矢先に伏兵・アリストテレスが猛追。絶体絶命かと思われたが最後まで凌ぎ切り、なんとか最後の一冠を手中に収めた。

 菊花賞としては意外と珍しいスタミナ勝負となったこのレース。映像を見るとコントレイルのパフォーマンスが相当落ちているように見えるが、分析してみるとそこまで悪くないことが分かる。同じくスタミナ勝負になった2013年菊花賞と比較してみると、勝ったエピファネイアのタイムは3:05.2。対してこちらは3:05.5。2013年の方がやや時計が掛かる馬場だったため、パフォーマンスとしてはエピファネイアより劣るものの、エピファネイアの能力が相当高かったことを考えると、コントレイル・アリストテレスのパフォーマンスは平均的な菊花賞馬クラスにはあったと言えるだろう。つまりこの菊花賞は、例年ならばアリストテレスが獲るはずだった菊花賞馬の座を、コントレイルがなんとか捻じ伏せてもぎ取ったレースなのだ。

 ただ、菊花賞ではダービーに比べてパフォーマンスが落ちているのは間違いない。このような長距離のスタミナ戦は間違いなく苦手なのだろうが、アーモンドアイと違うのは苦手な展開でもパフォーマンスの落差が小さいこと。菊花賞はスタミナ特化の競馬になっており、スピードが身上のコントレイルは大きく崩れてもおかしくはないのだが、これを勝ち切ったのだ。コントレイルはスピードだけではなく、スタミナやパワーも高いレベルで兼ね備えていることが言える。

 アーモンドアイと比較して、実力を発揮することのできる守備範囲が広い。そして東スポ杯の圧倒的スピード。あれは2歳時のもので、一年経った今はスピードにさらに磨きがかかっているはずである。そうなるともしかしたら、コントレイルはアーモンドアイを全ての面で上回っている馬だと言えるのかもしれない。

デアリングタクト

 2013年に菊花賞、2014年にジャパンカップを圧勝したエピファネイア。しかしそのポテンシャルをフルに発揮することができず、怪我により2015年春に引退、夢を子孫に託すこととなる。種牡馬になった後、その初年度産駒のデアリングタクトが無敗三冠牝馬に輝く。小さな家族経営の牧場から紡がれた夢の続き、その先に広がる光景とは。

 デアリングタクトは5戦しかしていないため候補が少ないのだが、ベストパフォーマンスは2020年オークスになるだろう。ダービーと同じくスローペースだが、ダービーよりもスパート地点が遅い、つまり直線での位置取りが結果に大きく影響する展開となる。後方馬群に押し込められたデアリングタクトは正に絶体絶命だった。進路が見つかったのはゴール前300mほど。そして進路が空いてから一気に差を詰めてゴール寸前での大逆転劇だった。

 この時、デアリングタクトは進路が空いた瞬間から一気にトップスピードへと加速して行った。実は、サラブレッドがトップスピードに加速するのには時間がかかる。人間の体重を80kgとすると、サラブレッドと騎手を合わせた体重は大体人間の6〜7倍。物理的に、加速に要するエネルギーも6〜7倍必要なのだ。一方で、人間は加速するために右足・左足で交互に地面を蹴って加速して行くのに対し、サラブレッドは走法的に加速に使えるのは一方の脚のみ。このことから、サラブレッドが加速するのにかかる時間は想像以上に長い。

 というわけで、普通ゴール前300mまで詰まってしまうと、そこからトップスピードに乗せるのに時間がかかるため、普通前を捕らえる事が出来ない。それを可能にしたのが、デアリングタクトの持つ並外れた加速力という事になる。つまりデアリングタクトは、一瞬でトップスピードに載せることのできる加速力が一番の持ち味になる。実際、台頭のきっかけとなったエルフィンステークスでも、一瞬の加速力で他馬を置き去りにしている。

 逆に得意ではないのは2020年秋華賞のようなレースになるだろう。デアリングタクトが完勝を収めたレースなのだが、同日の他のレースと比較してもタイムはかなり微妙、パフォーマンスも地味なものになってしまっている。

 このレースでは稍重馬場の中ハイペースで淡々と進んでいく展開となり、直線にトップスピードを引き出す余力を持てない展開となった。その中でデアリングタクトは横綱競馬で抜け出す競馬を選択するのだが、結果は上述の通り。トップスピードを封じられるとパフォーマンスがかなり落ちてしまう。

 しかし、この時デアリングタクトは発走までずっと極端なイレコミを見せており、そこで体力を消耗してパフォーマンスを落とした可能性も否めない。ベストなのはトップスピードを引き出せる展開なのは間違い無いだろうが、秋華賞のようなスタミナ戦でも、精神面が整えば最上位でも戦えるかもしれない。逆に言えば、父親から受け継いだ気性難もまた彼女の弱点でもある。

展開予想 

 ヨシオが逃げ宣言。そこにトーラスジェミニも絡むだろうが、後続の馬からは無視される可能性が高い。実質、カレンブーケドールの位置取りがペースを握ることになりそう。カレンとしては極端なスローペースになるのだけは絶対に嫌なので、序盤のペースは早くなりそう。ただ、ヨシオはともかく、トーラスジェミニは玉砕覚悟の逃げ馬という訳ではないので、中盤どこかでペースは緩むはず。1000m通過は60〜61秒あたりになって縦長の展開。コントレイル・アーモンドアイはカレンブーケドールを見ながらの位置、そしてデアリングタクトは中団から後方あたりだろう。

 スパートの地点はどこになるだろうか。主導権を握りそうなのはカレンブーケドール・コントレイル・アーモンドアイあたりだろうか。どの馬もロングスパートのスタミナ勝負には持ち込みたく無いはず。であれば、やはり4コーナーあたりからスパートがかかりそう。

 馬場としては普通の高速馬場のため、この位置からのスパートであれば必ずゴール前では減速する。つまりスピードの全てを出し切れる展開になる訳なので、どれだけスピードを持続させられるかが勝負の分かれ目になりそうだ。

予想

以下のオッズは全て前日オッズ。

◎コントレイル: 2番人気(3.1倍)

 三冠馬三頭の中で最強はコントレイルだと思っている。抜群の競馬センス、どんな展開でも崩れない底力、そして秘めたるスピード能力。おそらく、来年以降の競馬を引っ張って行くのはこの馬になるだろう。能力的には不安は全くない。

 ただし、本命にするにあたって不安なのは展開面。コントレイルはアーモンドアイを意識しながらレースを進めることになると思うのだが、そうなると必然的に馬場の内側をタイトに回ることになる。ネックになるのはヨシオ・トーラスジェミニの逃げ馬2頭で、この2頭が直線早々脱落してしまうと、コントレイルの進路が塞がれてしまう恐れがある。そのゴチャついた中進路を探している内に、他馬が加速力に物を言わせて大外から突き抜ける... という可能性は存在する。

 しかし、コントレイルはあらゆる能力が高い馬だ。そのような事態になっても進路を見つけ次第、スッと加速するという能力も持っているはず。直線詰まる事態になっても、それが致命的になる可能性は小さいだろう。そうであれば。

○グローリーヴェイズ: 4番人気(19.6倍)

 昨年の香港ヴァーズ覇者。かなり不気味である。

 2400m以上のレースではかなり安定した成績を残している。基本的にはどのようなレースにも対応できるのだが、おそらく本質は2019年の天皇賞(春)。スローペースからのトップスピード戦の中、フィエールマンと共に後続を6馬身千切ってのデットヒートを繰り広げた。

 フィエールマンがトップスピード戦でアーモンドアイと互角のレースをした訳なので、グローリーヴェイズもそれに匹敵する能力を持っているはず。であれば、このメンバーの中でもトップスピード能力で他馬を圧倒してもおかしくは無い。どうしても三冠馬3頭が注目されるが、香港ヴァーズを圧勝しているように、この馬も現役トップクラスの実力がある。

▲デアリングタクト: 3番人気(3.6倍)

 加速力だけならば全馬随一。スパートが遅れる展開になればデアリングタクトが突き抜けるはず。

 残念ながら東京競馬場でスパートが極端に遅れることは考えられないが、それでもトップスピード能力が秀でているのは間違いない。三強の中では最も後ろからの競馬になるため、前の馬が下がってくる不利も受けることは無いだろう。まともならばコントレイルを逆転するかもしれない。

 不安なのは気性難。秋華賞のイレコミ方は酷かったため、それと同じような状況になれば自滅する可能性がある。本命にしようかなとは思ったけど、流石にリスクがあるかな...

△アーモンドアイ: 1番人気(2.1倍)

 三冠馬の中では評価が一番下になる。これまでの実績はとても評価するが、やはり超高速馬場以外ではパフォーマンスを落とすこと、そして2400mと距離が長いこと。

 2018年ジャパンカップでは圧勝したが、そのレースは極端なスピード勝負になってのものであり、スタミナはほとんど問われない展開となっていた。翻って、今回は通常の高速馬場である。今回は2400mのスタミナがある程度問われてしまう。有馬記念でも見せてしまったが、スタミナが問われる展開になると脆くなってしまうため、ここでアーモンドアイを狙うのはリスクがある。

 アーモンドアイには2400mは長いのか? という問いがあるみたいだけど、自分は長いと思う。アーモンドアイの適性距離は2000m前後で、その類稀なるスピード能力で1600mも2400mも制圧してきたのがアーモンドアイという馬なのだと思っている。そのスピードが削がれれば、2400mの適正外距離はちょっと厳しいというのが自分の見方。とはいえ、3年間競馬界を引っ張ってきた偉大なる名馬である。どんな形であれ、無事に、立派に、ラストランを完走して欲しい。

△キセキ: 7番人気(43.7倍)

 この馬だって2018年ジャパンカップを2:20.9で走り抜けている。実力はあるのだが、その前にはいつも一頭強い馬がいる。それでもひたむきに走り続ける姿は応援したくなってしまう。この評価も応援の気持ちが強い。

 実際は出遅れ癖もあるし厳しいと思う。しかし、前走から2400mと距離が延びるのはキセキにとってはプラス。それに展開が噛み合えば、僅かながら光明が見えるかもしれない。実際には厳しいだろうけど...

△ミッキースワロー: 12番人気(164.5倍)

 大穴で一頭。最近はGII・GIIIのレースで堅実な結果を残している。直近のレースにはスタミナ戦が多いのだが、ミッキースワローが初めて台頭したのは2017年のセントライト記念だった。

 道中はスローペース、スパート地点も極端に遅く、後ろにいる馬は到底届かない展開だった。その中でミッキースワローは6番手から末脚を爆発させ前の馬を問答無用で置き去りにし、加速し続けたままゴールした。この当時は一級品のスピードと加速力を持った馬だった。

 その後はその加速力を見せつけるチャンスがあまり訪れていない。2019年エプソムカップ(GIII)では得意なはずのトップスピード勝負になったものの惨敗している。そのエプソムカップの時が特別調子が悪かった、ということであれば、このジャパンカップで数年ぶりに末脚を爆発させられる可能性がある。

「楠栞桜さんゴースティング疑惑」が泥沼化してる件

 kokukoku.hatenablog.com

 一ヶ月経っても収束しない炎上って見た事が無い。日本インターネット史上・麻雀界史上に残る歴史的事件となりつつある通称「ec騒動」。

 5chで他VTuberへの誹謗中傷、情報漏洩の嫌疑が掛けられている楠栞桜さんは8月20日の活動休止宣言以来、ほとんど沈黙を保ったままだが、その間も彼女に関する様々な疑惑が掘り起こされている。

 その中で取りあげたいのは「ゴースティング疑惑」。ゴースティングとは、別の配信者の画面を見ながら自分のプレイを行う行為のこと。麻雀以外でもFPSなどのネット対戦ゲームで行われている立派な不正行為で、発覚するとBANを含めた処分が下るのが一般的。

 楠栞桜さんのゴースティング疑惑とは、これまで彼女が行ってきた生配信の中で、他のVtuberや麻雀プロを相手にゴースティングを行ってきたのではないかというもの。楠さんは麻雀系VTuberの第一人者であり、麻雀ブームを牽引してきた代表的な人物である。その人が麻雀で不正行為を働いていたとなればこれは大問題だ。疑惑が立ち上がってから今日まで、様々な検証や議論が進められている。

 ...のだが、このゴースティング疑惑の議論、論点が全然整理されていなかったり、何のためにやっているのか意味不明だったりで、現状ただ二手に分かれての泥沼のしばき合いにしかなっていない。これではいつまで経っても議論は進まないし、炎上は長引く一方だ。炎上が長引く事は楠さんにとってはもちろん、麻雀界にとっても大きなマイナスでしかない。ちょっと見ていられないので、ゴースティング疑惑周りについて思うことをつらつら書いていこうと思う。

 なお、僕はこの件について別に中立でもなんでもない。正直、楠栞桜さんはかなり高い確率でゴースティングしていると思う。その上で以下の事を主張していきたい。

  • 例え生配信のバラエティであっても、ゴースティングは許されない
    • ゴースティングはイカサマの一種であり、それを容認することは麻雀に対するイメージダウンである
  • 現状のゴースティング検証は無意味かつ有害
    • どれだけ怪しい場面を積み上げたところで、グレーを黒にする事はできない
    • セオリーに則っていない打牌を槍玉に挙げることは初心者を萎縮させる事に繋がる

ゴースティング自体の是非について

 そもそもだが、「仮に楠さんがゴースティングしていたとしても、それは責められるべきなのか?」という話がある。俎上に載っているのは全て生配信での企画の中であり、賞金や称号などの報酬が設定されている大会ではない。いわゆる「視聴者を楽しませるためのバラエティ企画」の中での疑惑なのだから、別にそこでゴースティングしていたとしても大した問題ではないのでは? という声がいくつか見られた。麻雀業界の中の人からもあった。

 断言するが、バラエティの中であったとしてもゴースティングは立派な不正行為であり、責められるべき行為だ。ゴースティングは麻雀のゲーム性を台無しにする行為で、対局相手にとって失礼極まりないだけでなく、楠さんとVTuberや麻雀プロとの真剣勝負を期待して見守っている視聴者への裏切りでもある。

 そして何より、ゴースティングは麻雀においては立派なイカサマだ。どうしても賭博や不正行為など、麻雀はダーティなイメージを持たれやすいが、これを払拭するために麻雀業界は長年様々な努力を行なってきた。全自動卓によって意図的な牌の積み込みは行えなくなったし、麻雀プロ同士の対局も非常に厳しいルールの中行われている(賛否両論はあるが)。しかし、そのような努力をしていることは中々世の中に伝わらず、麻雀のイメージは未だにダーティなままだった。

 その状況を打破したのが他ならぬ楠さんだ。VTuberというフォーマットで楽しく麻雀を打ってみせる彼女の姿が、今まで麻雀に触れようとも思っていなかった層を引き寄せ、そして麻雀ブームが成立したのだ*1。そんな中、「バラエティならばイカサマOK」と主張するのは、麻雀に対するクリーンなイメージを浸透させた楠さんの功績を全てドブに捨てる行為に他ならない。このような主張をしていた麻雀業界の人がいて、その人はおそらく楠さんを庇いたかったのだろうが、自分の言っていることをよく考えてちょっと反省した方がいいと思う。

ゴースティング疑惑の検証について

 さて、楠さんのゴースティング疑惑については有志によって検証が進められている。ある人はゴースティングが疑われる場面を20個以上列挙し、それぞれについて打牌の不自然さを指摘している。その記事をもとにしてある人は楠さんを叩き、ある人は「その検証はおかしくない?」と反証を試みて記事を公開する。その記事に対して擁護や反論、そしてエスカレートしてレスバトルに発展して... というのが最近のゴースティング疑惑界隈のトレンドになっている。

 盛り上がっているところ申し訳ないが、正直言ってゴースティング疑惑の検証はマジで無意味だし、やめた方がいいと思う。理由は二つあって、一つはいくら検証しても疑惑の立証は不可能なこと、もう一つはその検証自体が麻雀界に悪影響を及ぼしかねないこと、特に初心者が萎縮しかねないこと。

 note.com

 申し訳ないがこちらの記事を引用させていただく。この記事には楠さんのゴースティング疑惑の主要なものがあらかた記載されている。(以下、どうしてもこの記事に対する言及が多くなってしまうが、当然ながら著者に対する批判は行なっていない事に留意してほしい)

 こちらの記事には数々の疑惑について、確信度に基づいてランク付けが行われている。最高位のSSSランクは「誰の目から見てもゴースティングやってる」レベルのものに付けられていると思われる。

 ただ、そのSSSランクの疑惑を持ってしても、残念ながら「間違いなくゴースティングしてる」と断言できるレベルのものではない。SSSランクの疑惑には以下のような反論が考えられる。

  • その5: もう手挙げちゃってるもんねwww
    • 多井プロの姿と彼の手牌は画面上重なっていない。手牌を隠して配信画面を見ていた事は考えられる
  • その8:こーしょーくんあの、直撮りじゃないんで、そこ押さえても、あの~関係ないかなあ
    • 楠さんが配信画面を見ていなかったとしても、話の流れと土田プロの発言から、土田プロが手元のカメラを手で覆った事はギリギリ推察可能
  • その19:ダマテンへの一発消しと一点読み
    • 話の流れより郡道さんがテンパイした事は分かる。それを受けてリーチされたと勘違いした可能性は考えられる
  • その20:違うサインの牌で差し込み
    • ルイスさんと共に楠さんもサインを間違えた可能性はある

 いずれの反論も、「楠さんはゴースティングをしていた」に比べれば正直とても小さい可能性になり、どうしようもない無理筋の擁護に思う人もいるかもしれない。しかし、いずれの反論も特に荒唐無稽な訳では無く、現実的に発生しうる程度には大きな可能性であることに注意してほしい。自分の映り方を確認するために配信画面を見ながら対局する事は考えられるし、1人が間違えるならば2人同時に間違える事だってあり得る。これらの合理的な反論を全て排除することが出来て、初めて疑惑がグレーから黒に変わる。このレベルの検証ではとてもゴースティングしていると断言できない。

 当たり前だが、ある人物を「不正行為をした」として断罪する際には、それ相応の覚悟と、「その人物が不正行為をした事以外に考えられない」と言える程の証拠が必要だ。確たる証拠もないのに人を非難するのは、冤罪を生み出しかねない絶対にやってはいけない行為である*2

 記事に戻る。SSランク以下の疑惑は全て楠さんのセオリー通りでない不自然な打牌を疑惑の根拠としているのだが、正直これもゴースティングの根拠としては弱い。

 唐突にFPSにおけるゴースティングを考えてみる。FPSでは移動方向も自由だし、敵に出会った時に交戦するか、遮蔽物に隠れながら進むか、脇道に逸れてアイテムを回収するかなど、常に無数の選択肢を選びながら進まなければならない。ここでゴースティングを行った場合、何の情報もない上に無数にある選択肢を全て無視して、一直線に配信者を狙って突き進む事になり、これは極めて不自然なプレイになる。しかし、FPSにおいてゴースティングを理由にBANとなった事例はほとんど存在しない*3。あらゆるFPSにおいてゴースティングは不正行為だと定義されているのにも関わらずである。この事から、運営であってもあるプレイヤーをゴースティングしていると断定することが極めて難しいことが分かる。

 いわんや麻雀をや。麻雀は最大14個の打牌+ポン・チー・カン・ロンの選択肢しか存在せず、どれほど不自然な選択肢を取り続けても「偶然に過ぎない」可能性を排除できない。不自然な打牌をいくら積み上げたところで、偶然が成り立つ確率が少しずつ小さくなるだけであり、ゼロになることは決してない。

 そもそも、「麻雀のセオリーからするとこの場面でこの打牌はあり得ない」といった検証は楠さん相手にはあまり意味が無いと思う。楠さんは麻雀そこまで上手くはないというのは最早周知の事実であり、そこでいくらセオリーに則って検証を行っても、それは打牌批判でありゴースティング検証ではない。現状の検証は楠さんが麻雀が上手い事を前提として行われているが、そもそもその前提が成り立っていない。

 結局、打牌内容からゴースティングの有無を検証するというアプローチそのものが間違っているような気がする。ゴースティングをしているから打牌内容が不自然になるのであって、打牌内容が不自然だからと言ってゴースティングしていることにはならない。不自然な打牌内容を積み上げても「ゴースティングしているかも?」が大きくなっていくだけで、「絶対にゴースティングしている!」には一生辿り着けない。グレーの色鉛筆でいくら塗りつぶしても、グレーの色が濃くなるだけで黒色にはならない。黒にするためには楠さんがゴースティングしている現場を押さえる必要がある訳で、それは一般人の我々には不可能な話である。

 また、先も書いた通り、楠さんは麻雀が大して上手くない。その程度のスキル者の打牌を取り上げてセオリーに則ってないからゴースティングと言うのは、麻雀初心者にとってはとても恐ろしい話のように思える。上級者にとって不自然に思える打牌をしたら、即ゴースティングが疑われると恐怖感を覚えるのではないだろうか。このレベルの疑惑を旗印に楠さんを叩く事は、かえって麻雀界に悪影響を及ぼす可能性がある事は分かっていてほしい。

ゴースティング疑惑がここまで盛り上がっていることについて

 そもそもの話、上記記事にあるゴースティング疑惑は全てYoutubeで行われた生配信が舞台であり、リアルタイムでも数千人、アーカイブなら数万〜数十万人が閲覧しているもの。それらは何も当時から問題視されていた訳では無く、ec騒動の後から注目され始めたものであることに注意してほしい。要はゴースティング疑惑はそれ単体で成り立っているものでは無く、楠さんに対する信用が暴落して初めて成立した疑惑ということである。

 楠さんの信用が暴落したのは、以前も書いた通り騒動に対する釈明が不誠実極まりないものだったからだ。5chに書き込みを行なっていた事は言い逃れ不可能であったにも関わらず、それを根拠も示さず完全否定するような声明を出した。結果、その声明も含めて楠さんの全てに疑惑の目が向けられてしまった。初動対応を根本的に間違えてしまった結果であり、厳しい言い方をすれば自業自得なのだが、楠さんだけで無く広範囲に悪い影響を及ぼし続けているのはなんだかなぁと言ったところ。

 何度も言うが、ゴースティングについていくら検証を重ねてもゴールに辿り着く事はない。現状はゴースティング疑惑を題材にしたレスバトルにしかなってないと思うし、やってる本人たちは楽しそうなんだけど、あんまり麻雀に対するイメージを悪くさせないでほしいと思う。

 

余談: 中立の幻想について

 某Youtuberのせいで「ゴースティング疑惑に言及する際にはまず己の立場を開陳しなければならない」という謎の風潮が生まれてしまったが、マジで意味不明である。ある意見を表明するのに、地位や立場なんて関係ない。主張の信憑性や価値はその主張そのものの質によって決まる。良質な主張は読者の納得を得て注目を集め、質の低い主張は無視されるかしばき回される。それだけだ。「筆者がどういう人か分からなければ主張の正しさが分からない」と言う人はちゃんと国語の授業を受けた方がいい。

 「筆者が中立の立場であること」と「筆者の主張に客観性があること」は何の関係もない。そんな事も分からず、反論してきた人をその人の属性を元に罵倒するような人間はYoutubeから出て行って一生mildomで配信してほしい。*4

*1:もちろん、Mリーグの成立や雀魂のサービス開始もあるが、それでも楠さんの存在がなければここまで大きなブームにならなかったと思う

*2:以前の記事で「楠さんはドルアンスレに書き込みをしていた事に間違いない」と書いたが、自分はそう書くだけの客観的証拠があると判断しているし、そう主張する覚悟も持っている

*3:Googleで調べた限りの情報なので、認識が誤っているならばコメント欄で指摘してほしい

*4:Youtubeトップ画面にレコメンドされてきて困っている

ec騒動で楠栞桜さんはどうするべきだったか

 というお知らせがネットを震撼させたのが一週間前。僕はエンジニアなので、はじめは情報を流出させたnoteの動向を注視していたのだが、そのうちこの事件によって大きな被害を被ることになる楠栞桜さんに興味が移ってきた。

www.youtube.com

 5月初め頃からVtuberの動画・配信を見始めるようになったのだけど、そんな新参でも知っているくらい楠栞桜さんは有名なVtuberだ。特に麻雀関連の活動には目を見張るものがあり、麻雀配信はもとより、麻雀大会のアンバサダーを務める、麻雀プロとのコラボ配信を行うなど、昨今の麻雀ブームを力強く牽引していた、麻雀界の重要人物だった。僕も彼女に影響されて雀魂に登録し、現在も日々麻雀を打っている(まだ雀傑1です)。

 そんな彼女だったが、noteのIP流出により一気に疑惑の人となってしまった。その疑惑とは端的に言うと、5chで他Vtuberの誹謗中傷・内部情報リークなどの悪質な書き込みをしていた人間のIPアドレスが、noteから流出した楠さんのアドレスと一致していたというもの。前から疑惑が燻っていたらしく、それがIP流出事件を契機に一気に爆発した格好だ。

 一応エンジニアの端くれなので、IPアドレスが一致しているだけで本人と断定できないのは重々承知している。この疑惑に最初に触れた時も「そんな訳あるか」と思っていた。思っていたのだけど、情報を精査する限り、楠さんが5chに書き込みをしていたことはほぼ間違いないと考えが変わった。

 一方で、楠さん側は早い段階から疑惑を完全否定するなどしているが、それで疑惑の目を交わす事はできず、新たなる疑惑が日々発掘され続けるなど、炎上対応に現在まで失敗し続けている。楠さんは白か黒かという議論は交わされているものの、楠さんはこのインシデントに対してどのように対応するべきだったかに着目した考察は僕の見る限りは無かった。人間は失敗に学ぶ生き物なので、この楠さんの大失敗事例を元にして、彼女は何を間違っているのか、僕たちはここから何を学ぶべきか考えていきたい。

 結論から先に述べるが、楠さんは炎上時、以下のような対応をすべきだった(し、今からでも軌道修正してこうするべき)。

  • 謝るべきところは謝り、事実とは違うことについては、事実とは違うと論理的に主張するべき
    • 雑に全てを否定すると有志の検証により嘘が暴かれてしまい、心証が非常に悪くなる
    • どこからを事実として認めて、どこからは事実ではないのか、きちんと明文化して宣言するべき
  • 最低限、6月以降5chに書き込みを行っていた事は言い逃れ不可能なので認めるべき
    • これについて嘘をつくのは楠さんの言動自体が信用できないことになり非常に不利
    • これを認めることによるダメージは実は相対的に小さい

客観情報の整理

 先ほどの通り、この疑惑は一言で言うと「楠さんが5chに書き込みをしていた」というものだが、その詳細は楠さんの前世、5chの仕様にも関わってかなり複雑なものになっている。しかし、これを整理しなければこの疑惑について冷静な議論が出来なくなってしまう。少々お付き合い頂きたい。

「夜桜たま」時代と「76」

 まず、楠さんは昨年12月まで「夜桜たま」というVtuberとして活動していた(本人から明言されてはいないが、公然の事実)。夜桜たまは「アイドル部」というVtuberグループに所属しており、チャンネル登録者数10万人を超える人気Vtuberだった(この頃からも麻雀に関する活動を行っている)。

 しかし昨年10月頃より、夜桜たまと「アイドル部」を運営するアップランド社との関係が悪化。夜桜たまがそれを訴える配信を行ったのを皮切りに、夜桜たまと他のアイドル部メンバーとの間にも大きな亀裂が走り、各メンバーのファン同士による誹謗中傷合戦が繰り広げられるなど、大きな騒動となった。結局、夜桜たまは12月4日に契約解除となる。アイドル部も人気失墜に加えその後も配信や動画が荒らされるなど、双方共に深刻なダメージを負った。

 この騒動の10月頃から12月初め頃にかけて、5chの「アイドル部アンチスレ」にアイドル部に関するリーク情報が多数書き込まれる。その内容はアイドル部の内部事情やdiscordの画面に加え、夜桜たまと対立しているVtuber個人情報などを含めた苛烈なものだった。

 ところで、アイドル部アンチスレには「ワッチョイ」なるものが表示される仕様になっている。ワッチョイとはIDのようなもので、IPアドレス・プロバイダ・ブラウザによって自動的に決定される。このうち特定の2桁はプロバイダ名によって決定される。前出のようなリーク情報を書き込んだ者のプロバイダ部のワッチョイは「76」だった。後の検証により、「76」はリークと共に、他アイドル部メンバーのdisや夜桜たまの擁護を数多く書き込んでいた事が明らかになる。

「楠栞桜」転生と「ec」

 契約解除から3週間後、個人運営の「楠栞桜」として活動を再開する。再開後は瞬く間に人気を集め、数ヶ月後には夜桜たま時代のチャンネル登録者数を抜き去る。活動の幅も広げ、今年6月頃には麻雀ブームの第一人者としての地位を確固たるものにした。

 一方、5月4日にアイドル部アンチスレとある書き込みが行われた。「楠さんが天鳳で三段に昇段した」という内容だったのだが、書き込まれた時間帯にはまだ外部から閲覧できる成績には反映されていない、つまり通常は本人以外知り得ないような内容だった。この人物のワッチョイは「ec」。「ec」も後の検証により、楠栞桜さんの擁護やコラボ相手へのdis、他Vtuberの前世を晒すなどの行為を多数行っている事が明らかになっている。

IP表示、疑惑の高まり、そしてIP流出

 5月16日頃より、アイドル部アンチスレの書き込みに書き込み元IPアドレスが表示されるようになる。ここでも「ec」は楠栞桜さんに関する擁護や、他Vtuberの前世に関する情報を行っていた。「ec」のIPアドレスは「222.4.120.217」である事が多かった。

 「222.4.120.217」のこの時期の特筆すべき書き込みとしては、近代麻雀の新連載の漫画家リークだろう。楠栞桜さんを題材とした漫画が近代麻雀に連載されることになったのだが、6月9日に「222.4.120.217」が「多分こいつ」としてある漫画家のtwitterアカウントを書き込んでいる。実際にその漫画家が連載を担当することになったのだが、それが一般に公表されたのは7月31日だった。

 7月上旬、楠栞桜さんのある行動により5chにアンチスレが立てられ、その中で「ec」「76」の書き込みに注目が集まるようになった。特に本人しか知り得ないはずの天鳳速報、アイドル部のメンバーに対するリークを含めた攻撃により、「ecや76は楠栞桜さん本人なのでは」という疑惑が膨らみ始めた。この疑惑は5ch内で盛り上がりを見せ、ニコニコ動画などにもこの事についての動画も投稿された。この頃から「222.4.120.217」による書き込みは激減する。

note.com

 7月31日、この騒動について楠さん側からの声明が発表される。キッパリを事実を否定する内容で、悪意のある内容には法的措置を取るという内容だった。この時点では「ec = 楠栞桜」という筋書きは5ch内の憶測に過ぎず、楠さん側を信じる人が大半だったと思う(自分もそうだった)。

 しかし風向きは急変した。8月14日、note社によるIP流出の脆弱性が発覚する。記事投稿者のIPアドレスがhtmlソースコード内にバッチリ記載されていたというお粗末過ぎる内容だったのだが、楠さんの投稿記事から漏洩したIPアドレスは「222.4.120.217」。アイドル部アンチスレに書き込まれていたアドレスと一致していた。

楠栞桜さんとアンチスレ

 楠さんは本当にアンチスレに書き込んでいたのだろうか? IPアドレスの一致こそあれ、それは改竄可能なものだし、IPアドレスを共用しているケースだって普通にある。そのIPアドレスが、楠さんとアンチスレ住人との間で偶然に一致する確率は、決して無視できる程小さくはない。

 ただこの件に関しては、自分は下記の動画が決定的証拠だと思っている。

www.nicovideo.jp

 上記の動画の通り、楠さんは配信中、明らかに何かしらの端末の操作を行っている。そしてその時間と、アンチスレに「222.4.120.217」が書き込みを行った時間は一致している。これだけで断定する事は当然出来ないのだが、強力な証拠である事には変わりないし、他にも様々な証拠があることを照らして考えれば、楠さんはアンチスレに書き込みしていたという見方に合理的な疑いは無い。

 正直これだけ証拠が揃っている以上、「楠さんは5chに書き込みをしていない」と主張するのであれば、その立証責任は楠さん側に存在するだろう。例えば、5chやプロバイダに「ec」が自分でない事の確認を行う、配信中書き込みを行っていたと見られる時間に実際に何を行っていたか、客観的証拠と共に説明するなど、手段は様々考えられる。手を尽くして自分は無実だと証明しなければならない。

アンチスレに書き込んでいたからと言って何なのさ

 ただし、アンチスレに書き込んでいたという事実は、疑惑の全てが真である事を証明しない。

 少なくとも「222.4.120.217」のIPアドレスの書き込みの大半は楠さんのものだと推察されるが、それがIPアドレス表示前の「ec」「76」と同一人物であるとは言えない。前述の通り、「ec」はプロバイダ名によって固定の値であるため、IPアドレスに比べて一意性が著しく低い。「222.4.120.217」も「ec」だからと言って、過去の「ec」の書き込みが全て楠さんのものだとは決して断言出来ない。さらに「76」はプロバイダ名すら異なるため、さらに疑わしくなる。現在のところ「ec」と「222.4.120.217」を結び付けるものはプロバイダ名と書き込み内容しか無いためこの疑惑はほぼ憶測、つまり「ecと76は自分ではない」という主張は十分に成立する。

 さて、「222.4.120.217」が楠栞桜さん自身だと認めた時、そのダメージはどれくらいのものになるだろうか。冷静に考えてみると、それは意外と大きくない事がわかる。

 例えば、この時期には他Vtuberの前世を示唆するような書き込みをしていたのだが、そんなものVtuberの前世なんて公然の秘密としか言いようがない。Vtuberがデビューする度に前世について執拗な詮索が行われるのが一般的な現在において、この行為が特別悪質性が高いとは言えない(モラル的には印象悪いが)。

 また、近代麻雀の連載漫画家のリークについて。こちらは楠さんも釈明していたのだが、彼女に正式に作者の名前が伝えられたのは6/23(金)とのこと。おそらくこのメールは捏造ではないだろうし、そうであるならばこれは竹書房側から楠さんに対し、6月初め頃に非公式な形で伝えられた可能性が高い。それを聞いてはしゃいで5chに書き込んだのであれば、まぁ許しちゃおうかなという気分にはなるし、竹書房側の情報コンプライアンスだってどうなのという話になる。

 真に問題なのは「アイドル部アンチスレ」に書き込んでいた事それ自体という事になるだろうが、夜桜たま時代のことを思えばそうするのには十分な理由があるし、モラル的には印象悪いがそこまで責められるものではない。

 上記の通り、「222.4.120.217」の書き込みは道徳的にはアウトだが、謝って許される物が大半である事がわかる。

曖昧模糊の釈明文章

 以上の事実の整理を元にして考えると、楠栞桜さんの炎上後の対応は明らかに失敗している。

note.com

 上記がIP流出後最初の楠さん側の公式声明となるのだが、具体的な事実を一切書いておらず、疑惑については「私が皆様を裏切るような書き込みをしたという事実はありません。」という曖昧すぎる一文のみでしか釈明していない。

 この時点では騒動が大きく広がっているため、文章を曖昧にして何が発生しているのかについて明言を避ける事に何のメリットも無い。また、「皆様を裏切るような書き込み」というのが何を指しているのかもはっきりしない。政治家の答弁のように、何とでも言い逃れできる中身のない文章となってしまっている。逆に「これは何かを隠したいのでは?」と疑惑を深める事になってしまった。楠栞桜さんはこの文章を通して、この疑惑に対して誠実に対応しようとする事を全く伝えられていない。

 曖昧な文章にはもう一つ問題がある。「私が皆様を裏切るような書き込みをしたという事実はありません。」と述べる一方で、「逆に何をしたのか」という事実を文章内に全く記載していないため、この文章からは一連の疑惑の全てを否定しようとしているように読めてしまう。具体的には、「76」や「ec」はもちろん、「222.4.120.217」の書き込みも自分のものではないと主張する文章になってしまっている。

 前述の通り、「222.4.120.217」が楠さんである事はほぼ確実。そうであるのにこの主張をしてしまうのは、楠さんは釈明文章内で明らかに嘘をついている事になる。そうなると楠さんの言葉に全く信用が置けなくなり、根拠が乏しいはずの「76 = 楠栞桜説」の方が逆に説得力が高くなってしまう。

 楠栞桜さんは、事実を認めたとしても大したダメージが無いものまで全てを否認しているため、逆に全てを疑われる状態になってしまっている。苛烈な個人攻撃を繰り広げていた「76」が楠栞桜さんであるかどうか現時点では分からないが、そうした真偽が分からない情報までも全て事実として扱われて攻撃されている。これは楠さんの言動に対する信用が無くなってしまっているからだ。

事実に真摯であれ

 もっと言えば、楠栞桜さんは時流を読み間違えてしまった。7月31日時点では疑惑は疑惑のままであり、疑惑の立証責任は楠さんを追求する側にあり、楠さんは毅然とした態度を見せるだけで良かった。

 しかしIPアドレスという強力な証拠が流出してしまった8月14日の時にも、楠さんはただ毅然とした態度を見せるだけに終わってしまった。この時には疑惑は確信に変わっているフェーズであり、とても「毅然とした態度」だけで押し返せるものでは無くなっていた。楠さんには疑惑に対する説明責任が発生していたのだ。

 この説明責任から逃れる事はできない。沈黙を貫いて鎮静化を図ろうとしても、楠さんに対するダーティーなイメージはいつまでも払拭できないだろう。少数の有志により疑惑の検証が引き続き行われ、新たな疑惑が発見されたり、沈黙している間に誤りやデマが事実として固定化してしまうかもしれない。社会的な信用も失われたままになり、Vtuberとして今より上を目指す事は、もう出来なくなるかもしれない。

 繰り返しになるが、大事なのは事実を伝えること。謝るべきところは謝ること。そして、事実とは違うことについては、事実とは違うと論理的に主張することである。それ以外にダメージを最小化させる術はない。

 人間は弱い生き物なので、自分が不利になるような情報は隠しておきたくなるし、嘘もつきたくなる。それが自身が炎上に晒され、不特定多数の攻撃を受けるようになれば尚更である。しかし、そこで自身の弱さに甘んじていては、嘘は暴かれ、隠した情報は明るみになり、さらに傷口が広がるばかりだ。このようなインシデントが発生した時には、とにかく自身に関わる人全てに対して真摯であること、そして事実に対して真摯であることに尽きる。それが「誠意」と呼ばれるものだろう。

 楠栞桜さんがきちんと事実と向き合い、正当な形で戻ってくる日を待っています。

「皇室報道局」の正体と皇室フェイクニュースビジネスの闇

皇室フェイクニュースの謎

 Twitterのトレンドにこんなのが上がっていた。

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 元記事はこちら。

imperialism.news

 小室さん関係の報道久々に見たなぁと思いつつ、それよりも常軌を逸した記事の内容と、それを鵜呑みにして小室佳代氏を叩きまくるツイートがトレンドに乗っているのにかなり嫌な気持ちになった。

 前にも同じようなことがあった。半年前、Twitterで大いにバズりまくったこの記事。   kikunomon.news

 タイトルだけ見ると死ぬほど面白いんだけど、記事の内容は現実性が無さすぎるし、実名が悠仁さま以外出てこず信憑性もない。何よりこのソースの「菊ノ紋ニュース」なるメディア、信じられないことに皇室専門のニュースサイトであり、皇室関係のニュースが毎日数記事配信されるという女性自身も真っ青の超ハイペースで皇室ニュースを量産していた。常識的に考えれば明らかなフェイクニュースサイトだ。クソ狭い皇室の世界でこんなおもしろニュースが毎日生産されるなんてことは絶対有り得ないからだ。

 さらに「菊ノ紋ニュース」周りには面白いことがある。「菊ノ紋ニュース」のこのページには運営者情報が書かれているのだが、分かっている限り、このサイトを運営している「メディアイノベーション合同会社」は以下のサイトも同時に運営している。これを以下では「MI社グループ」と呼ぶことにする。

koshitsu.today

kourozen.com

sekai-nippon.net

koshitsu-nanameyomi.com

tateyomi.info

 絶対おかしいだろ!!!!!!!!!!!

 どれもこれも皇室専門ニュースサイト。「菊ノ紋ニュース」の存在だけでも怪しいのに6倍だぞ6倍。

 これらのサイトは「菊ノ紋ニュース」以外は現在いずれも更新停止しているようだが、一時期はこれらのサイトを同時に運営し、全皇室ジャーナリストが束になっても敵わない量の記事を毎日量産していたのだ。当たり前だがその中身はまぁ酷い。スキャンダラスなタイトルが付けられているが、内容は全て憶測と匿名記者からの伝聞で構成されている。水を水で薄めた飲み物にキャッチーなラベルを貼り付けて売り付けるようなもの。買う方もどうかしてるのだが...

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 ちなみに「菊ノ紋ニュース」だが、現在に至ってはニュースにすらなっていない。毎日配信される記事はどれも本文は一切書かれておらず、出所不明のスキャンダルに対し「口コミ」「国民の声」と称して皇族への罵詈雑言が書き並べ立てられている、信じられないぐらいガチでホラーなサイトに生まれ変わっている。そしてそれに読者からの追加の罵詈雑言コメントが多数ついている。この世の終わりか。

「皇室報道局」という新手

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 さて、冒頭の記事に戻る。こちらのソース「皇室報道局」もまた皇室専門ニュースサイトであり、皇室関係のニュースを1日数本お届けする怪しすぎるメディアだ。お問い合わせページには謎の運営者と適当な住所、実在するのかもわからない編集長の名前が記載されている。仕方がないので「皇室報道局」でググる

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 皇室フェイクニュース仲間として「菊ノ紋ニュース」は分かるが、「皇室問題研究室」とは?

 f:id:realizemoon:20200724191744p:plain

 デザイン同じやんけ!!!!!!!!!!!!!

 という訳で、「メディアイノベーション合同会社」の他にも、皇室関係のサイトを複数運営してフェイクニュースを垂れ流している組織を発見してしまった。皇室フェイクニュース業界というアンダーグラウンドビジネス、まさか競合他社がいるとは...

 しかし以下の通り、このグループではメディアを複数持っていることを公言している。

imperatoria.net

 散らばっている情報をまとめると、皇室の今後を憂いていた元宮内庁職員・小内誠一氏が、2019年11月に「皇室是々非々自録」というサイトを公開したのが始まり。そのサイトが徐々に更新停止となり、その間の2020年2月に「皇室「是々非々」実録」が公開。そして5月にはこのお知らせの通り「皇室問題研究室」を公開し移転(しかし「実録」の更新も続いている)、さらに6月27日は「身の安全とリスク分散のため」として「皇室報道局」を新たに公開。小内誠一氏は、昨年11月から半年の間に、ほぼ同内容のニュースメディアを4つ立ち上げている。これらのサイトを「小内グループ」と呼ぶことにする。

 当然、小内グループのサイトも全てフェイクニュースサイトだ。記事の内容は同じく他週刊誌の要約や匿名記者からの又聞きでほとんどが占められているし、そもそも皇室関係の記事を複数メディアで毎日配信するということが、誠実なジャーナリズムを前提にしていればあり得ない。「皇室の今後を憂いて」サイトまで立ち上げた人間が、そんな適当な仕事をするだろうか? サイトにはもっともらしいことが書かれているが、信憑性ゼロのフェイクニュースサイトなので絶対に鵜呑みにしないように気をつけてほしいし、Twitter脊髄反射で誹謗中傷を書き込んでいた人は反省するか再発防止のため脊髄を抜くかしてほしい。

 ...というところで終わってもいいのだけれども。

点と線

 f:id:realizemoon:20200724192929p:plain

 「菊ノ紋ニュース」と見比べてみると、なんとなく、なんとなく「皇室報道局」のサイトと似てるように見えない?

 いや、見た目は当然大きく違うんだけど、デザインのダサさは共通している。およそ皇室メディアとしての風格がカケラも感じられない、個人ブログかと勘違いしてしまいそうなほど簡素で質素で貧相なデザイン。実際、MI社グループと小内グループのサイトは全てWordPressを利用して構築されている。両者共に、似たようなセンスの人がサイトのデザインを行ったんだろうなというのが分かる。

 ...果たして「似たような人」なのだろうか?

 whois情報を見てもロクな情報が得られなかったので困っていたのだが、見比べてみるとMI社グループと小内グループのサイトでは似たような画像が使われていることが分かる。どちらもモラルの低さはどっこいどっこいなので、ネットから適当に引っ張ってきた画像なのかもしれない。では以下はどうか。

 f:id:realizemoon:20200724210556p:plain

 これは小内グループの「皇室問題研究室」のこの記事より。「皇室の今後を憂いて」いる割にはテレビのスクショを平気で貼り付けるモラルの低さに頭を抱えるのだが、注目してほしいのは画面左側のコンソールに表示されているファイル名。スクリーンショット-9.jpg」という投げやりな名前が付けられているのだが、

 f:id:realizemoon:20200724210915p:plain

 全く同じファイル名・全く同じ内容の画像がMIグループの「菊ノ紋ニュース」のこの記事に掲載されている。これはどういう事だろうか? Google画像検索をしてみたが、この画像に「スクリーンショット-9.jpg」という名前がつけられているのはMI社グループ・小内グループのサイトのみだ。

 また、「皇室問題研究室」や「皇室報道局」は同じく「スクリーンショット-xxx.jpg(png)」というファイル名を掲載している記事が複数存在する。

 f:id:realizemoon:20200724213736p:plain

 例えばこの記事は先ほどの記事の10日前に作成されたものだが、ファイル名が「スクリーンショット-415.jpg」であり明らかに不自然だ。これはただの連番であり、過去に公開されているブログの素材であるなら、普通に考えてこの数字は9より小さい番号が与えられるはずだ。

 さらに、小内グループの記事の中で、「スクリーンショット-xxx.jpg(png)」の最小の連番は、「9」を除けば「皇室問題研究所」5月25日付のこの記事に登場する373。MI社グループの中で登場する最大の連番は「令和新聞」5月6日付のこの記事に登場する359小内グループとMI社グループでは似たようなファイルの採番方法を採用しながら、その番号帯は全く重なっていない。それどころか、小内グループはMI社グループの番号体系を引き継いでいるように見える。

 おかしな事は他にもある。「皇室報道局」が公開されたのは6月27日。前述のように「菊ノ紋ニュース」はニュース本文の代わりに罵詈雑言が記載されるようになったが、このような記事が初めて登場するのは6月26日公開分、6月28日公開分からは全てこの形式の記事となっている。

 上記のことより、以下の可能性が非常に高い。

  • メディアイノベーション合同会社」と「小内誠一氏のグループ」は実質同一の組織である
  • メディアイノベーション合同会社」は皇室関係のブログを多数立ち上げた。「小内誠一」なるペルソナを擁立した「皇室是々非々自録」もその一つである
  • 「菊ノ紋ニュース」以外の新規サイトは軒並み伸び悩んだが、「小内誠一」のキャラクターは好評を博したため、この枝を発展させようと試みた
  • 資源を集中させるため、「菊ノ紋ニュース」以外の新規サイトは全て更新を停止した
  • 「菊ノ紋ニュース」には固定層が多数いるため、PVを確保するために罵詈雑言オンリーの省エネ更新スタイルに切り替えた
  • 現状、「菊ノ紋ニュース」を執筆していた人間は「皇室問題研究室」「皇室報道局」に移って創作活動を続けている

 ここまで長々と書いてきてアレなんだけど、それはそうって感じだ。

皇室フェイクニュースの闇

 皇室フェイクニュースビジネス、以下の点でとてもよく出来ている。

  • 皇族に対する名誉毀損の告訴は、総理大臣が代理で行う必要がある(刑法第232条より)ため、告訴リスクが低い
  • 政治ネタのように派閥が存在せず事実について争われる事が少ない
  • その他のニュースのように、一般人が真贋を確かめる方法がない
  • 皇室ニュースを好む層は比較的年齢層が高く、情報の真贋を確かめるスキルを持っていないことが多い
  • そもそも、皇室ニュースを好む層は情報の真贋などどうでも良く、井戸端会議のネタや日頃の鬱憤をぶつける事が出来れば何でもいいと考えている(偏見)

 正しくメディアイノベーション。玉石混交の石だけを詰め合わせたものを垂れ流してもメディアは金を稼げるということを教えてくれる。日々遅くまで仕事し日々ネットでぶっ叩かれてる新聞記者がもの凄い目で睨んでいるぞ。

 しかしこれがTwitterのトレンドに載るってどうなの。Twitterやってるって事はある程度のネットリテラシー持ってるんかと思ってたけど。

 ニュースを見る際にオススメなのがソースを確認すること。ニュース記事のサイト名を見たり、yahooニュースなどのニュースサイトの場合は記事の配信元を確認する。見たこともない聞いたこともないサイトであれば読まない信じない。そこに書かれているものは新聞記者の1/1000以下の取材力で書かれた日記または感想文または小説なので、読んでも意味がないし、その内容を信じるなんて事があれば末代までバカにされるぞ。誰もバカにしなくても俺がバカにしてやるから安心してほしい。

 それにしても、この記事を書くためにMI社の皇室フェイクニュースサイトを見回ったんだけど、とにかく酷くて気分が悪くなった。記事の内容もそうだけど、それに乗じて皇室に対する悪意を剥き出しにしてコメントを書き込む人がこんなにいるのかと。記事の内容を信じちゃうのと、それに乗じてあんな酷い言葉まで吐けるという二重苦。

 もうネットが登場して25年。一般の人までもがネットに手を触れて情報の洪水に揉まれるようになって20年ぐらいか。もうそろそろ、こんな下らない事は終わりにしなければならない。そうするためにはWeb技術に何ができるだろう、とエンジニアの端くれとしては思う。

あなたの知らないミリシタMVの世界

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 Q. ズバリ、ミリシタのセールスポイントとは?

 豊富な楽曲と高頻度の楽曲追加、音ゲーにしては敷居の低い難易度、フルボイス&3Dのコミュなどなど、まぁ色々あるんだけど、もし仮に自分が「ミリシタどころかミリオンライブ・アイドルマスターを全く知らない人間」にミリシタを売り込むならば、僕はミリシタのハイクオリティなMVを激推しすると思う。

 ミリシタが登場した2017年6月、同様にMVを搭載していた音ゲーデレステぐらいしかなかったのだが(他にあったらごめん)、その後「ラブライブ!」や「ときめきアイドル」もMVを伴った音ゲーに参入、女性向けでも「あんさんぶるスターズ!」も参入しており、正直3DのMVを搭載している音ゲーはもう珍しくない。

 そんな状況でもあえてミリシタのMVを推すのは、そのMVのクオリティが他の追随を許していないと思うから。特に「細やかな指先の振り付け」「表現力豊かなカメラワーク」「楽曲の世界観を補強する照明・セット」へのミリシタのこだわりは尋常ではなく、これらのストロングポイントが他ゲームのMVに対する十分な差別化要因になっていると考える。

 そういうストロングポイントをミリシタの広報には強く推してほしいのだが、残念ながら広報は180回ガシャ無料以外宣伝する気は無いようなので、自分がこの記事の中で推していくことにする。この記事では「ミリシタを知らない人にも凄さが分かりやすい」ラインナップを心がけた。みなさんが周りの人にミリシタを推す際の参考になったり、ミリシタを知らない人への導入になったら幸いである。

花ざかりWeekend✿ - サビ

 まず最初に非常に分かりやすい例を1つ。昼間は地味に一生懸命働くOLが、金曜日の夜に街に繰り出して花開くという曲。ミリシタで一番バズりましたね。

 Bメロまではオフィス、サビは華やかな街と舞台がクッキリと分かれている曲なのだが、その切り替わりを「振り付けに合わせて上にスクロール」->「角度は同じだが、ステージ全体を映し出す開いた構図へ」という擬似カット割りで見事に表現している。カメラワークが楽曲の世界観を補強する、ミリシタの得意技の1つだ。

 ちなみに、このサビ突入の部分では音ゲーの譜面でも上フリックが割り当てられており、振り付け・カメラワーク・譜面が全てシンクロしている。ミリシタでも屈指の脳汁が出る場所。

待ちぼうけのLacrima - イントロ

 カメラワークが世界観を表現している例で分かりやすいものをもう1つ。真冬を舞台にした曲なので、天井から舞い落ちる紙片は当然、その日に降っている雪の比喩なのだが...

 それに加えてカメラの視線も天井から舞い降りて、アイドルを捉えたかと思えばまたふわりと宙に浮かぶという、あたかも冬の寒風に翻弄される粉雪から見た視点のようなカメラワーク。現実にはあり得ないこのカメラワークだが、これを通してこの曲の世界の季節、温度、そして主人公の心情を表現し、さらに見るものをこの世界に引き摺り込むかのような臨場感を味わわせる。

ジレるハートに火をつけて - 冒頭

 この曲、ミリシタのMVを語る際に不思議と名前の挙がらない楽曲だが、個人的にはミリシタ初期MVの最高傑作だと思っている。

 仄暗い照明の中で始まるイントロ、そしてスネアの3連打に合わせてカメラがズームアウトしステージ全体を映し出すとともに燃え上がる炎。最後はステージの背面からアイドル達の横を通り抜け、燃え上がるステージと客席を映し出す、ゆっくり、だがダイナミックなカメラワーク。

 決して燃え上がってはいない、だけどジリジリと焦がれてもう発火寸前、といった心情を描いたこの曲だが、それにバッチリ組み合わさったカメラワークと演出だと思わないだろうか。レーザーが飛び炎が燃え盛るステージ、しかしそれを捉えるカメラは決して派手な動きやカット割りを行わず、冷徹にステージとアイドルを映し出している。冷静と情熱の間、そのギャップが並々ならない緊張感を生み出している。

 「ジレるハートに火をつけて」のMVはこの後も名場面の連続なので、興味湧いた人がいれば是非フルを見てほしい。

dear... - サビ

 ミリシタ名物のワンカットMV。曲の始まりから終わりまで一切のカットがないという、現実世界ではありえないカメラワークが展開される。

 「dear...」はワンカットMVの2つ目。「dear...」の楽曲自体が電子音をメインとした熱の少なめな音で構成されているのを反映してか、イントロからBメロまでのカメラはアイドルを捉えて周囲を回るだけの、非常にメカニカルかつ淡々とした動き。照明もスクリーンも大きな動きを見せない。

 しかし、サビに入った瞬間に一変。数十本ものレーザーが飛び、背後のスクリーンも白く飛んだ後に鮮やかな色を見せる。カメラワークも、ステージ全体を映した後にアイドルの手にフォーカスするなどダイナミックな動きに。

 この動画ではカットしているのだが、サビが終わりイントロのメロディが流れると、再び淡々としたカメラワークに戻る。抑えきれない想いに呼応するかのように、サビでは色鮮やかな世界が展開されるが、それは一瞬の煌めき。そんな恋の儚さを表現したこのMVはあまりにも美しい。

待ち受けプリンス - イントロ

 「ジレるハートに火をつけて」と合わせて個人的初期MV最高傑作の1つ。ワンカットMVとはうってかわって、こちらはとにかく派手な照明とカメラワークが特徴。

 ロボットダンス風の振り付けをストロボチックな照明で映し出した後、歌い出しが始まると1拍ごとにカットが変わる忙しない構成に。その内容もアイドルを下から煽る構図だったり、ステージ全体を映したと思ったら次の瞬間にセンターの顔に一気にズームするなど、たった22秒とは思えない密度でやりたい放題かつ派手なカメラワークが展開される。盛り上がり重視、ド派手な曲にふさわしいド派手なMVだ。

 実は、「待ち受けプリンス」の振り付け自体は過去作品実装されたものの流用ではある。

www.youtube.com

 ただ、このMVとミリシタでのMVを見比べると全く違う印象を受けることだろう(後者の方が派手)。過去作品の方ではゲームの設計上大胆なカメラワークをしづらいのだが、同じ振り付けを流用していてもほぼ別物と言ってしまえるほどリファインできてしまうのがミリシタのMVチームの実力といったところ。

ジレるハートに火をつけて - Aメロ

 「ジレるハートに火をつけて」からもう一つ紹介したいのが、先の動画の直後にあるこのシーン。

 2秒程度の振り付けなのだが、この左手の振り付けの複雑さ・滑らかさは常軌を逸している。何回再生してもどんな動きをしているのかよく分からない。こんな一瞬の振り付けに対して、どれだけの手間をかけたのだろうか。

百花は月下に散りぬるを - Aメロ

 同じく変態じみた振り付けから。この曲のMVは全体的に振り付けのキレが尋常ではないのだが、特にこの動画の「唇は〜」の箇所。指を口元に添えるまでの動きが本当に絶妙。顔の輪郭に沿って美しい曲線を描いているが、機械的な印象は全く受けない完璧なバランス。この部分だけで何度も見れてしまう。


 推しMVを全て紹介しようとするといくら文字数があっても足りないのでこの辺りで。他にもミリシタには名作MVが数多く存在する。

 個人的に好きなのは「Princess Be Ambitious!!」「Angelic Parade♪」「ライアー・ルージュ」「Marionetteは眠らない」「PRETTY DREAMER」「ラスト・アクトレス」「addicted」「恋心マスカレード」「フェスタ・イルミネーション」「アニマル⭐︎ステイション!」「教えてlast note...」...と、これも挙げていけばキリがない。知らない人は何らかの手段で見てほしいし、知ってる人は改めて見てみる事で新たな良さに気付けるかもしれない。ぜひ。

ミリオンライブ二次創作界隈が「電子レンジ」氏に対して行うべきたったひとつのこと

 この記事では「二次創作界隈」 = 「二次創作の創作者」 + 「二次創作に触れて楽しんでいる人」と定義している。

はじめに結論

 今回の電子レンジ氏の行為に行うべきは、無視することでも、黙殺することでも、皮肉を言ったり茶化したりする事ではない。

 この界隈の一人一人が、電子レンジ氏が起こした行為を真正面から受け止め、「電子レンジ氏の行為は絶対に容認できないこと、自分たちは絶対に盗作行為を行わないこと、今後も界隈がそうあるために力を尽くすこと」を毅然と表明すること。

 電子レンジ氏の行為はただの盗作行為からは一線を画しており、特に「ISF(ミリオンライブの同人誌即売会)において海賊版に極めて近いグッズの頒布を行ったこと」「まるで原作者のような振る舞いで著作権を行使しようとしていること」の2点がミリオンライブ公式から見て心象最悪であり、二次創作界隈への信頼が無くなる可能性がある。このままだと二次創作活動について公式から何らかの制約を課されかねない。

 電子レンジ氏が攻撃を加え続けている以上、もはや問題を沈静化させるために黙っていれば解決するというフェーズではなく、僕たちみんながこの事件に対して向き合い、界隈に自浄作用があることを明確に示さなければならない。

二次創作の原理

 「二次創作はグレー」と説明される事が多いが、法的観点から見れば二次創作は完全な違法行為であることを確認しておきたい。著作物を原作者の許可なく改変することは、著作者の「翻案権」「同一性保持権」を侵害しており、明確な著作権侵害だ。

 ところが著作権侵害親告罪のため、著作者が自ら告訴しない限りは罪に問われることはない。二次創作は、著作権を持っている公式がその権利を行使していないので、「訴えられる可能性はあるが、訴えられていない」という状態になっている。当然、その著作権侵害物を閲覧したり金を払ったりしている人も同様のカルマを背負っている。

 何故、公式は二次創作を著作権侵害として告訴しないのだろうか。僕は公式側の人間ではないし、公式も理由を示す事はないので、考えてみる。考えた結果、2つの理由が挙げられる。

  • 二次創作の存在によって、ユーザコミュニティが活発になるから
  • 二次創作の存在が、公式から販売する各種商品と競合しないから

 この2つの前提があって初めて、公式にとって二次創作は「存在してもいい」存在になる。商品展開の邪魔にはならないし、ユーザコミュニティも発展する。長く見ると、自社のコンテンツの収益が拡大する。良いことづくめだ。言わば、公式は二次創作界隈に対して、この2つの条件が守られる土壌がある事を信頼している。同様に二次創作界隈は、二次創作を行っても公式から訴えられない事を信頼している。二次創作が許される背景には、このような相互の信頼関係がある事が考えられる。

 当然、この信頼関係は言葉にして示されるものではなく、形が無くて見えない、極めて脆い信頼関係だ。だから、二次創作に携わる人間はこの信頼関係を厳守する事を強く求められる。さもなければ、多くの人の努力によって守られてきた二次創作界隈という遊び場が一瞬にして崩壊するだろう。

 その信頼関係を、思いっきり踏み千切ってしまったのが電子レンジ氏というわけだ。

電子レンジ氏の行為

 電子レンジ氏のこれまでの行為は以下のtogetterにまとめられている。

togetter.com

 彼の行為が雑多にまとめられているが、ここでは問題としたい「盗作行為」「二次的著作物の著作人格権行使」について抜き出したい。

 電子レンジ氏は当時10000人以上のフォロワーを抱える、ミリオンライブ二次創作界隈では人気の作家だった。彼のイラストは他の作家の追随を許さないほどスタイリッシュで切れ味があり、その味に多くの人の支持が集まったのだろうと思う。

 ところが3/22、電子レンジ氏がこれまでのツイートを全削除し、代わりに以下のツイートを投稿する。

 この段階では「著しい模倣」がどの程度のものか分からず、「数点のイラストについて模写を行なって発表した」という程度の問題だと考えている人が多数いた(自分もその一人だった)。しかし、この後匿名アカウントからトレス検証画像が次々に投稿される。「著しい模倣」とは完全なトレスであること、その点数は数え切れないほどに登り、もはや彼の発表したイラストの大半が盗作である事が明らかになっていった。

 この時点で特に悪質だったのは以下のイラスト。電子レンジ氏はミリオンライブの周年ライブに設置されたプレゼントボックスにTシャツを贈り、それを受け取った声優がTシャツを着用した写真をTwitterにアップロードしたのだが、このイラストも盗作だった。

 その他にも、依頼を受けて納品したイラストも盗作行為が発覚(しかも複数件)したりと、電子レンジ氏の著しいモラルの欠如が暴かれていった。

 ただし、この時点までにおいての焦点は盗作行為のみであり、それは電子レンジ氏とその被害者のみで完結する話だった(盗作Tシャツプレゼント事件はその範疇ではないかもしれないが)。しかし、4/12以降に発覚した問題はこれまでの盗作行為から一線を画している。電子レンジ氏の行為はただの盗作では片付けられない。

ミリジャンにおける公式イラスト盗作問題

 「ミリジャン」とは電子レンジ氏が頒布した、ミリオンライブを題材としたボードゲーム。6000円超(通販だと8000円)という強気の価格設定が一部で物議を醸したようだが、これに使用されたイラストにも盗作が発覚している。それも、よりによって公式イラストからの盗作

 ミリジャンの場合もう一つ問題があって、それは過去公式から販売されたグッズとコンセプトが酷似していること。

www.asovision.com

 これは2013年に発売された公式グッズなのだが、「ターン制で順番に山からカードを取っていき」「役が完成したら上がり」「役はそれぞれのアイドルの組み合わせに因むもの」という主要なコンセプトがことごとく一致している。公式グッズの方は既に販売終了しており、ミリジャンの存在が公式の商売を邪魔しているわけではないが、それでも公式の感情を刺激しかねない非常に危険なグッズであることは間違いない。この程度のこと指摘する人間周りにおらんかったんか。

 それに加えて公式イラストからの盗作である。自分の絵柄で描いたグッズなら擁護のしようもあるが、公式から盗作したイラストを印刷しグッズとして販売するのは明らかに一線を踏み越えている。キャラクターが入れ替わっているだけで、これは公式イラストを無断で使用した海賊版グッズに極めて近い。さらに問題なのは、これが同人誌即売会のISFで頒布されたこと。健全な二次創作発表の場であるはずの同人誌即売会で、海賊版紛いのグッズが堂々と販売されていた事は極めて重大なインシデントだ。

 当然、ISFのような著作権侵害物を大っぴらに売買できるイベントが開催できるのも公式が黙認しているからであり、それはコミュニティが発展すること、それによって自社が損をしないことを期待してのものだ。そのような場で「公式が以前販売したものと酷似したグッズに」「公式の著作物をトレスして印刷して販売されていた」という事実の重大さを、僕たちはもっと認識した方がいい。普通にISFが取り潰されても文句が言えない。

 ぶっちゃけ、この事についてはISFから声明を出すべきで、そうでなければこの行為を黙認と捉えられかねないし、このままにして第二第三の電子レンジが出現し同じように海賊版紛いグッズ頒布されるような事があれば、その時点でミリオンライブの二次創作界隈は死滅するだろう。再発防止とか具体的な対策等は必要ないと思うが、電子レンジ氏のこの行為に対しては明確にNOを示し、ISFはこのような表現を絶対に許さないという事を毅然と表明するべきだ。それが二次創作発表の場を運営する人間としての矜持だと思うのだが、どうだろうか。

盗作検証者に対し弁護士を通しての警告問題

 「吹雪P@お絵描き練習中〜」氏(以下吹雪氏)は問題発覚以降、電子レンジ氏の問題追及・ミリジャンの返金交渉を行なっていた。4/12にミリジャン公式絵盗作が発覚してからはその検証画像をリツイートしていたりしていたのだが、4/15に電子レンジ氏の代理人を名乗る人物からの警告書を電子レンジ氏本人のDMから受け取る。

 著作権法的には正当(二次的著作物にも同一性保持権などが認められている)なものの、盗作で糾弾されている本人がその検証をしている人に対して法的手段に訴えるというのは、倫理的にはぶっ壊れている行動と言わざるを得ない。

 それ以上に電子レンジ氏の行為は、自らが著作権を侵害する二次創作者であるという立場を棚に上げた振る舞いであり、公式と二次創作界隈との信頼関係を揺るがしかねない。電子レンジ氏は警告書を公開した場合には実際に存在賠償請求を行う事を示唆しており、吹雪氏が警告書を公開してしまった以上、実際に訴訟が行われる可能性が小さくない。

 そしてもし電子レンジ氏が勝訴して損害賠償を勝ち取った時、ミリオンライブ公式はどう考えるだろうか。良かれと思って黙認してきた二次創作物で、それを転載した人間を相手取り訴訟を起こし、数十万円を手にするケースを、これもまた黙認するのだろうか。残念ながらこれは楽観的な想定だと思う。電子レンジ氏に対してはもちろん、その他の二次創作界隈の人間に対しても何らかの介入が発生する可能性がある。

 ちなみにこの問題について、電子レンジ氏・吹雪氏のどちらかが警告書を偽造している可能性が否定できないのだが、電子レンジ氏が偽造したとしても法的手段を執ると宣言していること自体が問題なのでこの議論とは関係なく、また吹雪氏が偽造している可能性については「私文書偽造は懲役もあり得る犯罪であり、リスクが高すぎること」「のちに電子レンジ氏のDMから警告書が送信されてきたスクショを公開しているため、信頼性が高いこと」「盗作を行なった人物が弁護士を雇って著作権法違反で告発するというストーリーは常人には考えられないこと」から限りなくゼロに近い。ここではこの警告書は本物であるとして扱いたい。

日本トレパク史上最悪の事件

 まだ界隈の雰囲気として、電子レンジ氏の行為について明言を避ける、ボヤかす、黙殺するといった行動を取る人が多数見られる。これは通常の盗作騒動であれば正しい対応だ。それは当事者同士の問題なので、そこの中だけで解決すればいい。無駄に口を突っ込むと逆に荒れたり雰囲気が悪く可能性がある。見守るのが界隈にとって一番良いだろう。

 ただし、電子レンジ氏の行為は残念ながらもうそういったフェーズにはない。盗作行為の検証の延長線上に発覚した問題なので錯覚しやすいが、「第三者の作品を盗作する」のと「公式のイラストを盗作して高額のグッズとして販売する」のとは悪質さが別次元だ。さらに、それを追及していた人に対し、あたかも一次創作者のような振る舞いで著作権を行使するというのも、公式から見たら信じられない振る舞いだろう。

 ここまで悪質な事件であれば、界隈の人間がこの事件について沈黙することが良策であるはずがない。黙っていたって延焼は止まらない、この界隈に対する印象もどんどん悪くなる。そしてこのまま有耶無耶になって、電子レンジ氏の事件を知らない人が流入して、いつかまた電子レンジ氏のようなモンスターが現れる。その時に間違いなくミリオンライブの二次創作は死ぬ。みんなそんな未来を望むのだろうか。

 そしてそれ以上に重要なのが、公式と界隈の信頼関係を今こそ守ることだ。電子レンジ氏の行為はこの信頼関係に対する破壊行為で、これに対して何もしないのは、今まで僕たちを信頼してくれていたミリオンライブ公式への裏切りだ。別に電子レンジ氏を攻撃しろと言っているわけではない。

 必要なのはこの界隈の一人一人が、電子レンジ氏が起こした行為を真正面から受け止め、「電子レンジ氏の行為は絶対に容認できないこと、自分たちは絶対に盗作行為を行わないこと、今後も界隈がそうあるために力を尽くすこと」を毅然と表明すること。

 電子レンジ氏というモンスターが生まれてしまった事を正面から受け止める。そしてそれを検証して、二度とこのような事が起こらないようにみんなで気をつける。そんな自浄作用がある集団である事を示す事が、公式への心象を考えればまず第一に行わなければならない事だ。

 ハッキリ言ってこの電子レンジ氏の事件は、日本の二次創作界隈で発生したトレパクの中でも最悪の事件だと思う。これ以上があるなら教えて欲しい。そういう事件がミリオンライブの界隈の中で発生している。この事を僕たちはもっと自覚したほうがいい。

 界隈の雰囲気が悪くなる? 今だってどんどん過去の盗作が発覚しているし、何よりも電子レンジ氏自身が燃料を注いでいるじゃないか。みんなが言及することで他ジャンルにまで話題が届くことが嫌? こんな悪質な事件、多くの人にまで拡散されるなんて時間の問題だ。楽しみたいだけなのに、何故そんな事をしなければならないのか? 確かに二次創作は楽しい遊びだが、それは公式の企業活動を邪魔しないという大前提の上にあるもので、それが脅かされているのならば立ち向かわなければならない。それが二次創作に触れる人間全員の責任であり、それが嫌であれば二次創作に向いていない。

 ミリシタから入った人間にとって、ミリオンライブの二次創作は非常に多様で、新鮮で、元のキャラクターの魅力に作者の味が加わった、素晴らしい作品が数多くある界隈だと思っている。ISFに行けば毎回20冊ほどは買っているし、Twitterでは日々様々なイラストやSSが流れてきて、僕の生活を彩っている。このような素晴らしい界隈が、これからも末永く続く事を切に願っている。