打ち首こくまろ

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ミリシタ「愛の旋律」事件を考える

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 今年のミリシタも1月に大変な事が起こってしまった。1/19(火)に開催予定だった新曲イベント「愛の旋律」が、開催1時間前に急遽中止となった。

 3年半のサービス開始以来初めての事態であり、驚きや怒りというよりは、動揺に近い受け止められ方をしたと思う。中止宣言から30時間以上経った今でも詳細な説明はされることはなく、Twitter上では早急に原因を明らかにするよう求める声、また原因についての憶測が飛び交っている状況となっている。

 ※追記: 1/21(木)10:30に、新曲について「他社権利既存楽曲に類似している部分があることが判明」したことから中止をしたと発表があった。

 そこに、本日15時にゲーム内に実装されたテキストが火に油を注ぐ格好となった。  

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 ミリシタ内の「ブログ」にイベント中止について謝罪するテキストが実装されたのだが、これを読んで「運営の代わりにアイドルに謝罪させている」として激怒する人が続出。それを受けて雑なまとめ記事も出てくるなど、あまり良くない状況となっている。

 すっかり炎上ウォッチャーと化してしまった自分なので、普段プレイしているミリシタで起こってしまった炎上についてもしっかり考察していこうと思う。大きく分けて二つのことを考えていきたい。

  • イベント中止の原因が明かされないのは正しいのだろうか?
  • 「ブログ」にイベント中止についてのテキストを実装したのは正しいのだろうか?

1. イベント中止の原因が明かされないのは正しいのだろうか?

 個人的な結論としては、一般論として速やかに原因を公開するべきだが、今回のケースの場合そうはいかないだろうというものになる。

 ユーザとしては楽しみにしていたイベントが急遽中止になったのだし、中には事前に数万円分課金したり、イベント開催期間中丸々有給を取得した猛者もいるだろう。その予定が狂わされてしまったのだから、そうせざるを得なかった事情と、今後の見通しについて、運営は速やかに整理して明らかにしなければならない。そうしなければ、ユーザの怒りは制御不能なものになってしまう。基本的に、インシデント発生時にはユーザ対応が最優先だ。

 では何故、30時間以上経った今も原因が明らかにされないのだろうか? それは、この件に関してユーザ以上に優先するべきステークホルダーが存在するからに他ならないだろう。

 現時点で原因については明らかされてはいないが、考えられる原因について整理していきたい。まず、バグなどの技術的問題が発生したという訳ではないだろう。この形式のイベントは今まで3年半に渡って開催され続けてきており、新たにバグが混入した可能性は極めて低い。仮にそうだとしても、その場合は不具合を修正してから開催すればいいので、「開催中止」という表現はされないだろう。

 それ以外の考えられる原因は何だろうか? イベントで実装されるものとして、曲・MV・カードイラスト・新規衣装・イベントテキスト・そしてテキストのボイスが挙げられる。これらのいずれかに問題があったはずだ。そして、誤植やイラストの書き間違いなどであれば後から修正する事もできるはずなので、そうする事も出来ない重大な問題、つまりこのまま実装した場合ミリシタの運営に大きな影響が出るレベルの問題が発覚したのだと考えられる。具体的には、

  • イベントの実装内容に、他者の権利を侵害する(あるいはその可能性のある)ものが含まれていた
  • イベントの実装内容が、App StoreGoogle Playなどの規約に反するものが含まれていると警告された
  • キャストの不祥事により、コンプライアンス上実装する事ができなくなった

 などだろうか。

 このうち、2番目に関してはあまり考えられない。「これから実装される内容」について、AppleGoogleがレビューを行なって差し止める、というケースは聞いた事がない。3番目に関しても、24時間以上経っても何の報道もないことや、その後のキャストや公式の対応から見ても、可能性は限りなく低いだろう*1。残るのは他者の権利を侵害する内容が含まれていたケースだ。

 仮にそうだった場合について考えてみる。この場合、最優先されるべきなのはミリシタのユーザーよりも権利侵害された被害者へのケアであり、ユーザへの状況説明はその後にならざるを得ない。もし仮に被害者との今後の方針についてすり合わせる前にユーザへの説明をしてしまった場合、その中に被害者の意にそぐわない文面が含まれていたりすると、被害者の感情を大きく損ねるリスクがある。それが拗れてしまった場合、話し合いで決着がつかず法的手段を執られる恐れまである。

 こうなった時、裁判にかかるコストや敗訴した際のリスク、そもそも訴訟された際の風評影響が計り知れないものになり、影響としてもミリシタだけに留まらず、アイマスはおろかBNEI全体の問題になりかねない。そのリスクを最小限に抑えるために、ユーザよりも何よりも、被害者との話し合いを優先しなければならない。ミリシタ運営が置かれている状況は、この状況に近いのだと想像できる。

nameless-drifter.hatenablog.com

 ミリシタ運営の対応の遅さを、昨年発生した80連バグの対応の悪さと絡めて「あれから何も進歩していない」と批判する向きもある。確かに、あの事件における運営の対応はかなり酷かった。しかしあの件以降、不具合に関しては詳細に説明するようになり、補填も迅速に行うなど、インシデントに対する運営の姿勢は見違えるほど良くなったと感じている。

 今回の件も、補填についてはイベント中止宣言と同時に説明されており、また本日14:50にも、状況説明に時間を要する旨のお知らせが掲載されるなど、ユーザに対しては可能な限り誠実であろうという姿勢が見られる。現在の運営の姿勢としても、早い段階で状況説明を行いたいと考えていることだろう。時間はかかるだろうが、運営からの説明を待ちたいと思う。

 ただし、そのような状況であっても怒れるユーザが待ってくれるわけではないので、可能な限り早く全容を明らかにすることが必要不可欠だ。特に、ミリシタ感謝祭が1/23(土)に行われることを考えると、その前日までには何らかの説明が行われることが望ましい。

2. 「ブログ」にイベント中止についてのテキストを実装したのは正しいのだろうか?

 これも個人的な結論としては、運営としては自然に実装したのだろうが、恐らくするべきではなかった、となる。

 そもそものミリシタにおける「ブログ」について話しておくべきだろう。グリー版ミリオンライブではアイドル-プロデューサー間、あるいはアイドル-アイドル間のコミュニケーションしか描かれていなかったのに対して、ミリシタで実装された「ブログ」は、アイドルから作中世界のファンに向けたコミュニケーションを(片方向だけではあるが)表現している。

 イベント開始前には劇場での公演とそこでお披露目する新曲やユニットについて紹介し、イベント終了後にはファンに対する感謝の言葉とオフショットが掲載される。その他にも、SSRを手に入れると新しい衣装の自撮りだったり、周年イベント時には日毎の登場アイドルのリレー形式のブログだったり、リアルイベントの際にもそれとリンクした内容のブログが掲載されたりなどなど。

 とにかく、今まで描かれなかった「ファンに向けたアイドルの顔」を描いてきたのがミリシタにおける「ブログ」機能だった。

 さて、「愛の旋律」イベント開始前に、そのイベントの公演内容についてのブログが更新されてしまった。しかしイベントは中止となってしまい、作中世界でも新曲のお披露目はされない事になってしまった。ここで、ファンに向けて既に公演の開始予告をしていたアイドルが何のリアクションも取らなければ、キャラクターとしてかなり不自然な行動となってしまう。アイドルには何の責任もないが、楽しみにしていたファンに対してイベントの中止を謝罪するというのは極めて自然な行動だし、2020年には散々見てきた光景である。つまり、イベントの中止についてゲーム中のブログに掲載するのはコンセプト上正解であり、運営としても自然な流れでその実装を決めたのだろう。

 問題なのはその「ブログ」のコンセプトが全プレイヤーに共有されているとは言えないこと。上記のような「ファンに向けたアイドルの顔を見せる」というコンセプトは、普段からブログを読んでいれば感じ取れるものの、ゲーム中に明文化されているものではない。そのため、ブログの文面を読んで「アイドルが運営の代わりにプレイヤーに謝罪させている!」と受け止めてしまう人は決して少なくないだろう。特に「イベント中止」という前代未聞の事態に動揺している人が多い状況では尚更である。

 「ピンチはチャンス」という言葉がある。運営としてもこの事態になりつつも、イベントを楽しみにしていたプレイヤーに対して少し気の利いた対応をしたかった気持ちもあるのだろう。その気持ちは多くの人達に届いたと思うが、同時に少なくない人達を怒らせてしまった。ミリシタのゲーム性的に、ユーザの感情を課金に結びつけるビジネスモデルになっていると思うので、感情を損ねてしまうのは収益的にも痛手になってしまうだろう。個人的にはコンセプトを全うした良い対応だと思ったのだが、全体としてみるとどうやら失敗だったのかな...と感じる。

 インシデント対応の際に最も重要なのは当然ユーザの資産を守ることだが、その次はユーザの感情を損ねないことで、どんな場合でもこの原則は守らなければならないのだろう。何故なら、最初のインシデント発生時でユーザ感情は大きく損なわれており、そこから不手際が重なれば傷は修復不可能なほどに大きくなり、ユーザが離れていってしまうからだ。

 今回の場合、テキスト実装によって怒る人が出てくるくらいであれば、いっそイベント開始前のブログを削除してしまえば良かったのではと思う。その場合は誰も喜びやしないしが、怒る人もほとんど出てこなかったのではと思う。

 サービス運営にはサービス精神が欠かせない。しかしそれをどこでどのように発揮するかが大事で、特にインシデント発生時には慎重に慎重を重ねなければならないのだと感じた。ジャンルは異なるが自分もサービスの運営者の端くれではあるので、サービス運営の難しさについて改めて考えさせられる。

 

*1:正直、イベント中止発表直後に最初に頭によぎったのは「誰か大麻で捕まったか!?」だった