打ち首こくまろ

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「楠栞桜さんゴースティング疑惑」が泥沼化してる件

 kokukoku.hatenablog.com

 一ヶ月経っても収束しない炎上って見た事が無い。日本インターネット史上・麻雀界史上に残る歴史的事件となりつつある通称「ec騒動」。

 5chで他VTuberへの誹謗中傷、情報漏洩の嫌疑が掛けられている楠栞桜さんは8月20日の活動休止宣言以来、ほとんど沈黙を保ったままだが、その間も彼女に関する様々な疑惑が掘り起こされている。

 その中で取りあげたいのは「ゴースティング疑惑」。ゴースティングとは、別の配信者の画面を見ながら自分のプレイを行う行為のこと。麻雀以外でもFPSなどのネット対戦ゲームで行われている立派な不正行為で、発覚するとBANを含めた処分が下るのが一般的。

 楠栞桜さんのゴースティング疑惑とは、これまで彼女が行ってきた生配信の中で、他のVtuberや麻雀プロを相手にゴースティングを行ってきたのではないかというもの。楠さんは麻雀系VTuberの第一人者であり、麻雀ブームを牽引してきた代表的な人物である。その人が麻雀で不正行為を働いていたとなればこれは大問題だ。疑惑が立ち上がってから今日まで、様々な検証や議論が進められている。

 ...のだが、このゴースティング疑惑の議論、論点が全然整理されていなかったり、何のためにやっているのか意味不明だったりで、現状ただ二手に分かれての泥沼のしばき合いにしかなっていない。これではいつまで経っても議論は進まないし、炎上は長引く一方だ。炎上が長引く事は楠さんにとってはもちろん、麻雀界にとっても大きなマイナスでしかない。ちょっと見ていられないので、ゴースティング疑惑周りについて思うことをつらつら書いていこうと思う。

 なお、僕はこの件について別に中立でもなんでもない。正直、楠栞桜さんはかなり高い確率でゴースティングしていると思う。その上で以下の事を主張していきたい。

  • 例え生配信のバラエティであっても、ゴースティングは許されない
    • ゴースティングはイカサマの一種であり、それを容認することは麻雀に対するイメージダウンである
  • 現状のゴースティング検証は無意味かつ有害
    • どれだけ怪しい場面を積み上げたところで、グレーを黒にする事はできない
    • セオリーに則っていない打牌を槍玉に挙げることは初心者を萎縮させる事に繋がる

ゴースティング自体の是非について

 そもそもだが、「仮に楠さんがゴースティングしていたとしても、それは責められるべきなのか?」という話がある。俎上に載っているのは全て生配信での企画の中であり、賞金や称号などの報酬が設定されている大会ではない。いわゆる「視聴者を楽しませるためのバラエティ企画」の中での疑惑なのだから、別にそこでゴースティングしていたとしても大した問題ではないのでは? という声がいくつか見られた。麻雀業界の中の人からもあった。

 断言するが、バラエティの中であったとしてもゴースティングは立派な不正行為であり、責められるべき行為だ。ゴースティングは麻雀のゲーム性を台無しにする行為で、対局相手にとって失礼極まりないだけでなく、楠さんとVTuberや麻雀プロとの真剣勝負を期待して見守っている視聴者への裏切りでもある。

 そして何より、ゴースティングは麻雀においては立派なイカサマだ。どうしても賭博や不正行為など、麻雀はダーティなイメージを持たれやすいが、これを払拭するために麻雀業界は長年様々な努力を行なってきた。全自動卓によって意図的な牌の積み込みは行えなくなったし、麻雀プロ同士の対局も非常に厳しいルールの中行われている(賛否両論はあるが)。しかし、そのような努力をしていることは中々世の中に伝わらず、麻雀のイメージは未だにダーティなままだった。

 その状況を打破したのが他ならぬ楠さんだ。VTuberというフォーマットで楽しく麻雀を打ってみせる彼女の姿が、今まで麻雀に触れようとも思っていなかった層を引き寄せ、そして麻雀ブームが成立したのだ*1。そんな中、「バラエティならばイカサマOK」と主張するのは、麻雀に対するクリーンなイメージを浸透させた楠さんの功績を全てドブに捨てる行為に他ならない。このような主張をしていた麻雀業界の人がいて、その人はおそらく楠さんを庇いたかったのだろうが、自分の言っていることをよく考えてちょっと反省した方がいいと思う。

ゴースティング疑惑の検証について

 さて、楠さんのゴースティング疑惑については有志によって検証が進められている。ある人はゴースティングが疑われる場面を20個以上列挙し、それぞれについて打牌の不自然さを指摘している。その記事をもとにしてある人は楠さんを叩き、ある人は「その検証はおかしくない?」と反証を試みて記事を公開する。その記事に対して擁護や反論、そしてエスカレートしてレスバトルに発展して... というのが最近のゴースティング疑惑界隈のトレンドになっている。

 盛り上がっているところ申し訳ないが、正直言ってゴースティング疑惑の検証はマジで無意味だし、やめた方がいいと思う。理由は二つあって、一つはいくら検証しても疑惑の立証は不可能なこと、もう一つはその検証自体が麻雀界に悪影響を及ぼしかねないこと、特に初心者が萎縮しかねないこと。

 note.com

 申し訳ないがこちらの記事を引用させていただく。この記事には楠さんのゴースティング疑惑の主要なものがあらかた記載されている。(以下、どうしてもこの記事に対する言及が多くなってしまうが、当然ながら著者に対する批判は行なっていない事に留意してほしい)

 こちらの記事には数々の疑惑について、確信度に基づいてランク付けが行われている。最高位のSSSランクは「誰の目から見てもゴースティングやってる」レベルのものに付けられていると思われる。

 ただ、そのSSSランクの疑惑を持ってしても、残念ながら「間違いなくゴースティングしてる」と断言できるレベルのものではない。SSSランクの疑惑には以下のような反論が考えられる。

  • その5: もう手挙げちゃってるもんねwww
    • 多井プロの姿と彼の手牌は画面上重なっていない。手牌を隠して配信画面を見ていた事は考えられる
  • その8:こーしょーくんあの、直撮りじゃないんで、そこ押さえても、あの~関係ないかなあ
    • 楠さんが配信画面を見ていなかったとしても、話の流れと土田プロの発言から、土田プロが手元のカメラを手で覆った事はギリギリ推察可能
  • その19:ダマテンへの一発消しと一点読み
    • 話の流れより郡道さんがテンパイした事は分かる。それを受けてリーチされたと勘違いした可能性は考えられる
  • その20:違うサインの牌で差し込み
    • ルイスさんと共に楠さんもサインを間違えた可能性はある

 いずれの反論も、「楠さんはゴースティングをしていた」に比べれば正直とても小さい可能性になり、どうしようもない無理筋の擁護に思う人もいるかもしれない。しかし、いずれの反論も特に荒唐無稽な訳では無く、現実的に発生しうる程度には大きな可能性であることに注意してほしい。自分の映り方を確認するために配信画面を見ながら対局する事は考えられるし、1人が間違えるならば2人同時に間違える事だってあり得る。これらの合理的な反論を全て排除することが出来て、初めて疑惑がグレーから黒に変わる。このレベルの検証ではとてもゴースティングしていると断言できない。

 当たり前だが、ある人物を「不正行為をした」として断罪する際には、それ相応の覚悟と、「その人物が不正行為をした事以外に考えられない」と言える程の証拠が必要だ。確たる証拠もないのに人を非難するのは、冤罪を生み出しかねない絶対にやってはいけない行為である*2

 記事に戻る。SSランク以下の疑惑は全て楠さんのセオリー通りでない不自然な打牌を疑惑の根拠としているのだが、正直これもゴースティングの根拠としては弱い。

 唐突にFPSにおけるゴースティングを考えてみる。FPSでは移動方向も自由だし、敵に出会った時に交戦するか、遮蔽物に隠れながら進むか、脇道に逸れてアイテムを回収するかなど、常に無数の選択肢を選びながら進まなければならない。ここでゴースティングを行った場合、何の情報もない上に無数にある選択肢を全て無視して、一直線に配信者を狙って突き進む事になり、これは極めて不自然なプレイになる。しかし、FPSにおいてゴースティングを理由にBANとなった事例はほとんど存在しない*3。あらゆるFPSにおいてゴースティングは不正行為だと定義されているのにも関わらずである。この事から、運営であってもあるプレイヤーをゴースティングしていると断定することが極めて難しいことが分かる。

 いわんや麻雀をや。麻雀は最大14個の打牌+ポン・チー・カン・ロンの選択肢しか存在せず、どれほど不自然な選択肢を取り続けても「偶然に過ぎない」可能性を排除できない。不自然な打牌をいくら積み上げたところで、偶然が成り立つ確率が少しずつ小さくなるだけであり、ゼロになることは決してない。

 そもそも、「麻雀のセオリーからするとこの場面でこの打牌はあり得ない」といった検証は楠さん相手にはあまり意味が無いと思う。楠さんは麻雀そこまで上手くはないというのは最早周知の事実であり、そこでいくらセオリーに則って検証を行っても、それは打牌批判でありゴースティング検証ではない。現状の検証は楠さんが麻雀が上手い事を前提として行われているが、そもそもその前提が成り立っていない。

 結局、打牌内容からゴースティングの有無を検証するというアプローチそのものが間違っているような気がする。ゴースティングをしているから打牌内容が不自然になるのであって、打牌内容が不自然だからと言ってゴースティングしていることにはならない。不自然な打牌内容を積み上げても「ゴースティングしているかも?」が大きくなっていくだけで、「絶対にゴースティングしている!」には一生辿り着けない。グレーの色鉛筆でいくら塗りつぶしても、グレーの色が濃くなるだけで黒色にはならない。黒にするためには楠さんがゴースティングしている現場を押さえる必要がある訳で、それは一般人の我々には不可能な話である。

 また、先も書いた通り、楠さんは麻雀が大して上手くない。その程度のスキル者の打牌を取り上げてセオリーに則ってないからゴースティングと言うのは、麻雀初心者にとってはとても恐ろしい話のように思える。上級者にとって不自然に思える打牌をしたら、即ゴースティングが疑われると恐怖感を覚えるのではないだろうか。このレベルの疑惑を旗印に楠さんを叩く事は、かえって麻雀界に悪影響を及ぼす可能性がある事は分かっていてほしい。

ゴースティング疑惑がここまで盛り上がっていることについて

 そもそもの話、上記記事にあるゴースティング疑惑は全てYoutubeで行われた生配信が舞台であり、リアルタイムでも数千人、アーカイブなら数万〜数十万人が閲覧しているもの。それらは何も当時から問題視されていた訳では無く、ec騒動の後から注目され始めたものであることに注意してほしい。要はゴースティング疑惑はそれ単体で成り立っているものでは無く、楠さんに対する信用が暴落して初めて成立した疑惑ということである。

 楠さんの信用が暴落したのは、以前も書いた通り騒動に対する釈明が不誠実極まりないものだったからだ。5chに書き込みを行なっていた事は言い逃れ不可能であったにも関わらず、それを根拠も示さず完全否定するような声明を出した。結果、その声明も含めて楠さんの全てに疑惑の目が向けられてしまった。初動対応を根本的に間違えてしまった結果であり、厳しい言い方をすれば自業自得なのだが、楠さんだけで無く広範囲に悪い影響を及ぼし続けているのはなんだかなぁと言ったところ。

 何度も言うが、ゴースティングについていくら検証を重ねてもゴールに辿り着く事はない。現状はゴースティング疑惑を題材にしたレスバトルにしかなってないと思うし、やってる本人たちは楽しそうなんだけど、あんまり麻雀に対するイメージを悪くさせないでほしいと思う。

 

余談: 中立の幻想について

 某Youtuberのせいで「ゴースティング疑惑に言及する際にはまず己の立場を開陳しなければならない」という謎の風潮が生まれてしまったが、マジで意味不明である。ある意見を表明するのに、地位や立場なんて関係ない。主張の信憑性や価値はその主張そのものの質によって決まる。良質な主張は読者の納得を得て注目を集め、質の低い主張は無視されるかしばき回される。それだけだ。「筆者がどういう人か分からなければ主張の正しさが分からない」と言う人はちゃんと国語の授業を受けた方がいい。

 「筆者が中立の立場であること」と「筆者の主張に客観性があること」は何の関係もない。そんな事も分からず、反論してきた人をその人の属性を元に罵倒するような人間はYoutubeから出て行って一生mildomで配信してほしい。*4

*1:もちろん、Mリーグの成立や雀魂のサービス開始もあるが、それでも楠さんの存在がなければここまで大きなブームにならなかったと思う

*2:以前の記事で「楠さんはドルアンスレに書き込みをしていた事に間違いない」と書いたが、自分はそう書くだけの客観的証拠があると判断しているし、そう主張する覚悟も持っている

*3:Googleで調べた限りの情報なので、認識が誤っているならばコメント欄で指摘してほしい

*4:Youtubeトップ画面にレコメンドされてきて困っている