打ち首こくまろ

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シャニマス水着騒動を考える

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 シャニマスで先日実装された水着衣装が、実在する既存製品の無断引用なのではないかと話題になっている。

 この件を眺めていて個人的に考えることが沢山あったので、思考の整理のために書いていきたい。シャニマスはほとんどプレイしたことがない(すみません)が、議論には影響がないはず。

事実の確認

 7/20、シャニマスがそれぞれのアイドルの新規水着衣装を発表。

 その約4時間後、ファッションブランドであるパルフェットが上記のツイートを行なった。一部のアイドルの衣装が自社商品のデザインに酷似しているとした内容である。

 酷似してるかどうかはそれぞれの人の意見によると思うのだが、「当事者からしたら『パクられた!』と思っても不思議は無いほどの類似度だな」という前提は全員が共有できると思う。

考える

 Twitter上でよく見かけた意見からいくつか抜粋して、一問一答形式で書くことで考えていきたい。

法的には問題ないから別にいいのでは?

 一部その通りで、おそらくシャニマス側は今回違法行為を行なっていない。パルフェットは該当の衣装を意匠登録していないため、法的に保護される対象ではない。パルフェット側もそれは認めている。

 じゃあ何が問題なのか? 陳腐な言葉だけれど、これはモラルの問題になる。

 極端な例として、今後シャニマスがアイドルの衣装を既存の製品から全てパクっていくことを考える。これには違法性が無いため誰もこの行為を止めることが出来ないのだが、パクられ側であるファッションブランドとしては一方的に搾取されているも同然である。自分達が一生懸命作ったデザインが、大手企業にフリーライドされて金儲けに使われているのだから。

 当然、シャニマスはファッション業界から敵視され、警戒されることとなるし、その悪評はそこかしこから漏れ出してくることとなる。結果的に、シャニマスのイメージは取り返しの付かない程深刻なダメージを受けることになる。

 前例としてウマ娘がある。実在の馬名を商業利用する場合でも馬主に許可を取る必要は法的にはないため、ウマ娘においても当初は許諾を得ることなくキャラクターをデザインしてプロモーションを行なっていた(と思われる)。しかし、その事が大手馬主から問題視され(たと思われ)、後の展開では相当数のキャラクターが姿を消すこととなってしまった(と思われる)。現在は各馬主に許諾を取った上で作品内に登場させている(これは確実)。

 ウマ娘もその気になれば、馬主の言うことも無視して突き進むこともできた。法的には何も問題はない。しかしそうしなかったのはモラルの問題、モラルを守ることがイメージを守り、利益を守ることに繋がると認識したからだろう。ウマ娘も現在、いくつかの衝突はあるが、競馬界とも良好な関係を築きつつ、コンテンツとして大きな成長を迎えている。これが多数の馬主から敵視されている状態で展開されていれば、こうはならなかっただろう。

 シャニマスにも同じことが言える。シャニマスはイラストの美的センスやファッション性が大きな魅力の一つだと思っているのだけど、そのようにファッション性を求めていくのであれば、最先端を走るファッションブランドのデザインを何らかの形で援用していくことは避けられない。そうであるならば、そのようなファッションブランドに敬意を払って、良好な関係を築いていくことが、結局はシャニマスというコンテンツの発展に繋がるだろう。そのメンバーの一人が不快感を訴えたのなら、しっかりとケアをしていくのがいいと思う。

今まで実在の服を描いても何も無かったのに、なんで今回だけ騒動になってるの?

 引用された側が不快感を表明しているから。

 シャニマスの過去のイラストの中には、既存の製品を引用して描いたものもある(らしい)。それが問題になってなかったのは、単に印象された側が何もリアクションしなかったからだろう。無断引用されたとして、「シャニマスにうちの製品が使われてる!」と嬉しくなる企業もいれば、パルフェットのように不快になる企業もある。考えられるリアクションが千差万別な以上、無断引用したからといって即問題とはならない*1

 しかし、今回は引用された側が不快感を持っている事が確定している。こうなると前述のようにモラルの問題になっていくので、シャニマス側としてはしっかりとケアしていくべき事態となっている。

ちゃんとした企業ならば当事者間で解決すればいい話なのでは?

 ここでは「ちゃんとした企業ならば」という言葉と、「当事者間で解決すればいい話なのでは?」という言葉に分けて考えたい。最初に言っておくが非常に嫌いな意見になる。

 まず「ちゃんとした企業ならば」という言葉について。これはかなり確信に近い推測なのだけれど、このように主張する人の「ちゃんとした企業ならば」という文字列におそらく意味は無い。これを主張する人は、その人が誰であれ話を表に出したこと自体に対して怒っていると確信している。

 なぜこう思うのかと言うと、同人誌朗読騒動でほぼ似たような構図があったから。これは大手VTuber2名がYoutubeの生配信内で、作品を特定できるかたちで成人向けBL同人誌内の一部セリフを読み上げた事件。同人誌の作者はそれに対して不快感を表明したのだが、VTuber側のファンの一部が「当事者同士で解決すればいい話を表に出すな!!」と一斉に作者を攻撃、大規模な炎上となった。

 同人誌朗読騒動を語ると非常に長くなってしまうのだが、この炎上の発端となった構図は、シャニマスの件にかなり似ている。「あるグループが違法ではないにしろモラル的に微妙なことを行う」->「当事者が不快感を表明する」->「当事者同士で解決しろ!! とグループのファンの一部が当事者を攻撃する」という一連の流れは、ある程度普遍的なものなのかなと思う。

 そして、同人誌朗読騒動では作者という「個人」が攻撃された。シャニマスの件の当事者であるパルフェットは法人なのだが、これはたまたま法人だったために「ちゃんとした企業ならば〜〜」という枕詞がついているだけだと思う。もし引用されたのがフリーランスデザイナーであったとしたら「ちゃんとした社会人ならば〜〜」と言われただろうし、芸大生なら「ちゃんとした学生ならば〜〜」と言われただけの話かなと思う。「ちゃんとした企業ならば」という言葉は、自分の言葉になけなしの正当性を確保しようとして付け加えた苦しい言葉だと思っている。

 後半の「当事者間で解決すればいい話なのでは?」だが、これは当事者に対して多くを求めすぎである。今回の件では、パルフェットがBNEIに当事者間の話し合いを持ちかけて解決を図るメリットは一切ない。話し合いでの解決は時間がかかるし、それだけ見解を発表するのが遅くなる。ならば、そんな面倒なことはせずに「うちの許可は取られてません」ぐらいは簡潔に言っておく、というのは普通の考えだと思う。そもそも、既にパルフェットはBNEIに対して悪感情を持っていると思われるので、そんな感情を持っている相手に対して話し合いをしろと強要するのは想像力が欠落しているのかなと思う。

 もっと言えば、「当事者間で解決すればいい話」というのは、警察に通報されて逮捕される羽目になったヤクザが被害者を逆恨みするのと同じロジックなので、非常に自己中心的だということをちゃんと理解しておくべきなのかなと思う。この被害者側が話を表に出したことで炎上に追い込まれる現象は最近よく目にするので、この行為は恥ずかしいことだとちゃんと名前をつけて啓蒙していくことが必要な気がする。「Webお礼参り」とかどうです?

パルフェットも過去アイマスロゴを無断引用していたしどっちもどっちでは?

 真偽不明なのだが、真実だとしても別問題なので切り分けて考えるべき。

 仮にそこを問題視したとしてもシャニマス側のイメージが上向くことは一切ないので、誰も得しない。

衣装デザインなんて似るものだし、全てをチェックするのは無理なのでは?

 本当にそう。きちんとしたチェック体制を敷いていても、世の中にはデザインが溢れかえっているため、全てをチェックするのは物理的に不可能。意図的にしろそうでないにしろ、既存デザインに酷似してしまう衣装が出る可能性を0にするのは絶対にできない。

 そもそも、シャニマスのような運営型ゲームは常にイラスト・楽曲・テキストなどの大量のコンテンツを投下しなければならないわけで、それら全ての類似チェックをすることなど不可能。なので、運営型ゲームではパクリ騒動・盗作騒動のようなインシデントは絶対に起こるものだという気持ちを、開発者としてもユーザとしても持っておくべきだと思う。

 インシデントは絶対に起こるもの。であるならば、運営が力を注ぐべきなのはインシデントが起こったその後の対応である。今回であれば、被害者側となったパルフェットに対するケア、騒動となってしまったイラストへの対応を表明することによるユーザへのケアが挙げられるだろう。運営の力量はインシデント予防よりも発生後の対応に現れると考えているので、シャニマス側の今後の対応を見守っていきたい。

 また、類似デザインが絶対に出てしまうのならば、いっそのことアイドルに着せる衣装を全て既存の商品から引用するのも手かもしれない。もちろん、予めブランドに対して許可を取ることは必要だが、さらゲーム中にもクレジットしたり、ゲーム内外で実商品を購入するための導線を整備すれば、シャニマスとファッション業界の関係も非常に良好になるだろうし、今までにない新しいビジネスモデルが作られるかもしれない。

無断引用よりも衣装ガシャの悪質さをもっと広めるべきなのでは?

 知らんけどがんばれ。

*1:当事者のリアクションを待つまでもなく明らかに問題だと言えちゃうケースもあるので、ここは程度問題