MC松島とミステリオのbeefが死ぬほど面白い件
今、HIPHOP界の片隅を賑わせている1つの事件、それが、数日前に勃発したMC松島とミステリオのbeef合戦だ。
beefとはラッパー同士のdisり合い、より狭義には楽曲を通して互いをdisる事を指す。今回発生しているのは後者の方。これがもう、抱腹絶倒レベルで本当に面白い。「あのラッパー達、なんか低レベルな言い争いしてるぜ」みたいに冷笑してしまう意味ではなくって、真正面から、本当に心の底から笑えるのだ。
とにかくこの面白さを伝えたいと思い、この記事を書いている。まずは登場人物のMC松島・ミステリオを紹介してから、beefに至った経緯、そしてどこが面白ポイントなのか書いていきたい。
登場人物
どちらもMCバトルで名を挙げているラッパー。そしてどちらも「ギャグラッパー」と呼ばれているところが面白い。ギャグラッパー同士なぜbeefに発展してしまったのか。その前に登場人物の紹介。
ミステリオ
大阪出身。楽曲制作にも精力的に力を注いでいる、若年層に人気のラッパー。
MCバトルのスタイルとしては「ギャグ」主体。ユーモラスな韻を多用するのが特徴。代表的なのが上記のアカペラMCバトルで、1分間ぶっ通してギャグを披露した後、オチをつけて制限時間ピッタリで終わると言う奇跡的なラップを披露している。
MC松島
北海道出身。10年以上前からMCバトルに出場しているベテランMC。
同じ「ギャグラッパー」と呼ばれてはいるけど、こちらはどちらかと言うと捻りの効いたメタな視点からのラップが得意技。上記の動画はそんなMC松島のスタイルが存分に楽しめるんだけど、飄々としているのが彼の持ち味なので、あまりよくわからないかもしれない。
経緯
開戦前夜
事の発端はMC松島が地上波のMCバトル番組、「フリースタイルダンジョン」に出場した時のこと。MC松島は第2ステージまで勝ち進んだものの、ここでHIPHOPクルー・「韻踏合組合」のERONEに破れる。
2/26にその模様がOAされた後、MC松島は自身のYoutubeチャンネルに、その時の裏話と番組に対する不満、そしてERONEのモノマネ動画をアップロードした。どうやらそれがERONEの不興を買ってしまったらしい。
なんかキショイな。
— エローン (@erone121) 2020年3月3日
ゴチャ抜かしやがって。
クオリティ低い、人の物真似すんなって。
もとから平等じゃないし、こっちはヤる気で挑んでんだから、何ナヨい事抜かしてんの。
怖い。
MC松島はこの後、ERONEとDMのやり取りを行いひとまず和解。一般リスナー向けにも釈明動画を公開した。
同日、ERONEも「あの件について、これ以上は多分ない。」とツイートをした。
あの件について、これ以上は多分ない。
— エローン (@erone121) 2020年3月8日
俺んとこにストリートから、誰を持ち帰ろうとして失敗したとか、どんどんネタの情報入ってくるけども。
もう、これ以上はネタの情報もいらないっス。
何回も言ってるけど、俺はビーフはもう懲り懲りなんで。
これでこの件は一件落着... のはずだった。
第一ラウンド
3/11、ミステリオが唐突にMC松島へのbeef曲を公開する。
しょうもないMC松島さんへ
— ミステリオ 固定ツイート見て! (@shinchan4s) 2020年3月11日
ムカついたんで曲作りましたー
あんま調子乗んなよマジで@matusima2323 https://t.co/Q9LvKJV4Vw
松島 お前格下 っていうかチンコと金玉どこに隠した?
話題性微妙 顔面微妙 ダサい性事情 完全に死亡
ミステリオはファッションショップ・一二三屋のアルバイト店員を勤めながらラッパーとしての活動を行なっているのだが、実は一二三屋のオーナーは韻踏合組合のHIDADDY。つまりミステリオとERONEはかねてから親交があったのだ。そのERONEがMC松島からdisられたと受け止め、ミステリオがその報復としてbeef曲を公開した、と思われる。本人同士の喧嘩が決着したこのタイミングで。
MC松島のファーストリアクションはこちら。
こんなの返すメリットあんのか笑? https://t.co/yjRlk27i1h
— MC松島 (@matusima2323) 2020年3月11日
それはそう。
しかし、そうはさせじと一二三屋のオーナー、HIDADDYが援護射撃を行う。
YouTubeとかTwitterじゃなくて
— HIDADDY (@hidaddy_ifk) 2020年3月11日
ちゃんとレコーディングしてきてるから
ラッパーなら受け止めてあげたら⁈ https://t.co/s4VeaqwtVV
翌日、MC松島が動画を公開。
【Youtube】ミステリオはん
— MC松島 (@matusima2323) 2020年3月12日
翌日午前納品!代引き受け取り拒否ヤメロ!
https://t.co/n58B6tpDzM @YouTubeさんから
中身スカスカ 骨粗鬆症の骨思った アメリカなら即訴訟とね
チンコと金玉なら付いてなくてもかっこいい人居るんだから無関係なのに
未だ性差別的なディスはダセーから絶滅させるべきですね
俺のフロウは快適なジャンボジェット
捻り効いたライムは魔貫光殺砲
ミステリオのbeefへのアンサーソングだ。ミステリオの動画公開から僅か約18時間というスピードで制作されたこの曲、全体的にミステリオのbeefの中身の無さを揶揄しながら、テクニカルなラップを披露する構成となっている。冒頭の「ミステリオ」と絡めた複雑なライムを聴けば、MC松島のスキルの高さが分かるようになっている。
ちなみに、この動画は5分あるのだが、アンサーソングは前半の2分半で終わっており、後半はミステリオに揶揄された「ダサい性事情」に引っ掛けてか、「大阪の性獣ギャルと5Pする羽目になって一生懸命頑張った」という意味不明な話が展開されている。また、「悪いのは中国人じゃなくてウィルスだぞ!」というのは、HIPHOPクルー・BAD HOPがコロナウィルスの影響で無観客ライブの配信をした際、メンバーのT-PablowがMCで語った言葉のパロディ。
第二ラウンド
面白いのはここから。2日後の3/14、ミステリオがアンサーを受けて更なるbeefを公開する。
しょうもないMC松島へー@matusima2323
— ミステリオ 固定ツイート見て! (@shinchan4s) 2020年3月14日
松島はん https://t.co/Tv5Leu5FIb @YouTubeより
コメント欄まるでリオのカーニバル 毎日家おるが仕事ないんか?
不愉快なフロー ジャンボジェット ちゃんとせぇ それじゃバットエンド
北海道なら阿寒湖札幌 全然食らわん魔貫光殺砲
なんやて? ワシが骨粗鬆症? dis曲しか回らんポンコツの証拠
アンサーソングの内容を拾いつつ、ミステリオらしいライミングでMC松島へのdisを積み重ねていく内容になっている。また、半ば炎上状態になっているYoutubeのコメント欄を揶揄する内容も。
それに対するMC松島のファーストリアクションはこちら。
まだ続いてたのか!もう絶対返さないよ https://t.co/CS29cEEuSk
— MC松島 (@matusima2323) 2020年3月14日
それはそう。
しかし、そうはさせじと一二三屋のオーナー、HIDADDYが援護射撃を行う。
これはHIPHOPですね
— HIDADDY (@hidaddy_ifk) 2020年3月14日
あーだこーだ言いたいのはわかるけどhttps://t.co/GVg60D4OrJ
2日後、MC松島が動画を公開。
【Youtube】ミステリオお前ラップ向いてないから辞めろ
— MC松島 (@matusima2323) 2020年3月16日
ラッパーならラップで返せ
https://t.co/XrxqmwdV67 @YouTubeさんから
まさかの曲ではなく公開説教動画。
ミステリオさぁ、ラップ向いてないからマジ辞めたほうがいいと思う
から始まる、徹底してロジカルで度を越して辛辣なラップ批評動画。この動画が本当に、面白くて面白くて仕方がない。これまでのミステリオのbeefを聴いて誰もが抱いた「なんだかなぁ...」という感情、その全てをズバズバと言語化してバッサバッサと切り捨てていく。その痛快さたるや!!
冒頭から
今回大事なことは「言われた事にどうやって返すか」だと思うんだよね
それが1ッ個も無いのよ!!
そりゃつまんないって!
だの
なんでそんな事になるかっていうと
もう頭がめっちゃ悪い
でラップの基礎がめっちゃ無い
で笑いの才能がめっちゃ無い
マジ辞めたほうがいいと思う
だの、もう言い過ぎなぐらい言ってしまっている。でも、これが中途半端に相手を慮った言い方だったら妙にリアルで笑えないんだけど、辛辣すぎて逆にすごく面白い。
そしてここから、MC松島はミステリオのラップの問題点を具体的に指摘していく。
という真正面からの辛辣なラップdisもあれば、
「コメント欄まるでリオのカーニバル 毎日家おるが仕事ないんか?」
家で仕事してる人とか何人もおるぞ!!
disにもなっとらんわ!
という21世紀の価値観に立脚した真っ当な意見も。
で面白いのは、ミステリオのラップに対してMC松島がキチンと改善案を提示しているところ。
「北海道なら阿寒湖札幌 全然食らわん魔貫光殺砲」
最っ悪!
魔貫光殺砲より強いドラゴンボールの技いくらでもあるじゃん!!
もしくはドラゴンボールより新しいマンガいくらでもあるんだからさ、
「うわ〜オッサンだからドラゴンボールの技なんでしょw
今流行ってんのは鬼滅の刃 そうやって年齢の割に自滅のライマー」みたいな!!
言い返せよ!! 何よ「食らわん」って!!
「骨粗鬆症」のラインに対しては、
「中身がスカスカ」って言われてる事に対して返せって!
「ぎっしり詰まっとるわ まるでチョココロネ ラップはスキルちゃう 心根や!」みたいな、
「おぉ、確かにこれじゃあスカスカっていうdisは通用しないな!」っていう状況を作って有利にしようよ!
という、具体的かつ的確なアドバイスまで提供している。
動画の終盤ではこのbeefの構造そのものについても指摘。
「恩人に対するdisでこのbeefやってます」って言うのなら来るの遅すぎじゃん!
なんで当人が「もうおしまい」って言った2,3日後に来んのよ! すぐ来いや!!
愛無いじゃん!
動画としてはミステリオが徹頭徹尾罵倒されている内容なので、人によっては嫌悪感を抱いてしまうかもしれない。しかし、自分にとってはこの動画がもう腹抱えるぐらい面白い。これは多分、この動画の前の部分ミステリオから始まったbeefの一往復半のやり取りが前フリとして機能しているからだ。
正直、ミステリオのラップを聞いた人は皆、言いようのないモヤモヤを抱えると思う。それは一言で「ダサい」と形容してしまえるような、でもそれだけだとなんだか言葉足らずなモヤモヤ感。それを、このMC松島の批評が一つ残らず言語化して「それおかしいだろ!!」とツッコミを入れているのだ。
これ丁度、東京03のコントに似ている。彼らのコントも、前半はボケ役がツッコまれず、後半になってツッコミがボケの行動をズバッと言語化してツッコむ、と言う構成のコントが多い。なんとも言えない、だけど何かがおかしい、そんな空気が会場に充満した時に、ツッコミがその空気に着火する事によって爆発的な笑いが起きるのだ。MC松島とミステリオのbeefも、偶然全く同じ構図になっている。僕の心にあったモヤモヤに、MC松島が火をつけて爆発させたのだ。
感想
ミステリオは個人的には好きなラッパーだし、BADHOPみたいなアウトローなラッパーよりもミステリオみたいなピースフルなMCを応援したい気持ちがある。ただ、正直beefの曲の質はイマイチで、応援している立場からしても「ちょっとなぁ」となってしまった。
でも、それだけならミステリオがダダ滑りしていたところ、しっかりとキャッチしてエンターテイメントにまで昇華したのがMC松島の素晴らしいところだと思う。アンサーソングの質も高いし、批評動画についてdisだけではなくリスナーも聞いていてためになる内容だし、何より爆発的に面白い。
あと、ユーモアがある人ってやっぱりロジカル能力がキチンとしてるなぁと。MCバトル界隈で最もロジカルアンサー能力のあるMCは呂布カルマだと思うんだけど、彼も時として突拍子もないユーモアを吐き出して会場を爆笑の渦に巻き込むことがある。ロジカルに繋がらない所が笑いを生み出すポイントになるし、ロジカルシンキングがちゃんとあるから、計算して笑いを生み出すことが可能になるのかなぁと。
スタジオ向かう
— ミステリオ 固定ツイート見て! (@shinchan4s) 2020年3月17日
あと、この記事を書いている時にミステリオがこんなツイートをしていたんだけど、MC松島の批評disに対する更なるbeefを作成するのだろうか。そうであればちょっと楽しみだし、それに対してMC松島(とHIDADDY)がどんなアクションを取るのか相当楽しみだ。お互い相手にムカつくところもあるだろうけど、この件をキッカケに親交を深めてもらって、一緒に曲出したり一緒にM-1出たりしてほしい。