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千羽黒乃「麻雀1年目の教科書」を読みました

 books.rakuten.co.jp

 密かに推しているVTuber千羽黒乃さんが麻雀戦術書を出版した。その名も「麻雀1年目の教科書」。せっかく読んだので感想をつらつらと書いていこうと思う。

 ちなみに自分は麻雀3年目であり、雀魂では雀豪3で一生足踏みし続けている。そのくらいのレベル感の人間が書いてるよと言うことを念頭に入れて欲しい。あと、上記の通り千羽さんは推しているので、下記の感想は別に客観的なレビューでもない。

タイトルとコンセプト

 正直「麻雀1年目の教科書」というタイトルを聞いた時にはビックリした。本を出版すると聞いた時には、千羽さんの打ち筋を解説するのを主軸にしたファンブックに近いものになると思っていたので、「千羽黒乃」というタレントの文字列がタイトルに含めない、そしてターゲット層を「麻雀1年目の人」に明確に絞るというガチガチの戦術書を出版してきたのはかなり驚かされた。どのような経緯でこのようなコンセプトに決定されたのかは分からないが、これだけでも千羽さんのこの本に対する並々ならない力の入れようを感じさせられる。

 内容もタイトルに全く違わない、麻雀のルールを覚えたての1年生に向けた内容。既発本では平澤元気さんの「麻雀初心者が最速で勝ち組になる方法」に近いが、それよりもややレベル感が低く、「勝ち組にはなれなくても何とか互角ぐらいには戦えるようになる」というレベルに向けて書かれている印象がある。麻雀戦術書の中では最も初心者向けの部類に入ると思う。

 かなり基本的な内容が書かれているが故に、千羽さんのオリジナリティが発揮されている箇所は本文中にはほとんど無い(千羽さんの大好きな三色同順ですら存在が抹殺されている)。先程の平澤元気さんの著書を始め、様々なメディアで紹介されてきた基本的なテクニックが内容の大半を占めるため、正直に言って雀魂で言えば雀豪をキープできる実力の中級者にとって得られるものはほとんど無い。ただそれ以下のプレイヤーや、「千羽さんが楽しく喋ってるのは見てるけど、麻雀については何言ってるかあんまり分からないな」というレベル感の人にとって、最初に手に取る麻雀戦術書としてはかなりピッタリな本になると思う。

リーチ編

 現代麻雀最強の手役はリーチ。この本でもリーチの優位性については繰り返し語られており、全体のボリュームの半分程度はリーチするための手組み技術に割かれている。リーチは攻撃の主役であり、上級者相手にも逆転することのできる切り札でもあるので、ここを重点的に説明するのは真っ当なコンセプトだと思う。

 手組みについても「字牌から切る」「数牌でも端っこの牌から切る」という初歩の初歩から解説してくれるので、初心者でも躓くことなく読み進められる。また、各トピックの最後には4問程度の練習問題が記載されているので、文字からだけでなく実戦に近い形からも理解を深めることができる。

 ただ、5ブロック打法が登場する辺りからいきなり難易度が高くなる印象を受ける。僕も初心者の頃に、「ウザク式麻雀学習 牌効率」という本で5ブロック打法の概念に出会った時、何故このテクニックが重要なのか全く理解できなかったので、これは仕方がないのかもしれない。初心者のうちは今の手牌の形を把握するのに精一杯で、将来の手牌の質を向上させるための5ブロック打法を理解することは到底無理なので、分からなかった人はこのセクションを飛ばしてもいいと思う。麻雀を打っているうちに分かるようになる。

 個人的には複合系について結構解説されているのは好印象。複合系は強いのだけど、最初のうちは形が分からなくて嫌いがちになってしまう。そこを丁寧にフォローすることで、初心者でも怖がることなく打てるようにしてあげるという心遣いを感じる。他にも、くっつき聴牌やアンコヘッドレス形など、初心者のうちは見落としてしまいがちな強い形について解説されているのが素晴らしい。全体的に、この章の内容を習得するだけで打てるリーチはほぼ全て打てるようになると思う。それだけで上級者とも戦えるはず。

鳴き編

 反面、鳴きについてはほとんど役の紹介に留まり、解説の分量も少ない。「鳴く」という選択肢が加わることで麻雀の自由度は一気に高まるが、初心者にとってはその自由度が仇となり、「どれを鳴けばいいか分からない」ことになりがち。この本ではいつ、何を鳴くかという鳴きの基準についてはほとんど解説されていないので、そこに課題のある初心者にとっては疑問が解消されないことになる。

 リーチを最重要の攻撃手段という立ち位置においている以上、この割り切り方はコンセプト的にはまぁ正しいと思う(成績に与える影響もリーチ技術よりは小さい)。もしそこを突き詰めたい初心者のプレイヤーがいたら平澤元気さんの本や動画を見るのがオススメ。

守備編

 麻雀は攻撃だけでは勝てない。3/4を費やすことになる守備のターンの技術を向上させることが成績にも直結する。ということで、この本にも守備の基本的な技術が記載されている。

 リーチ編と同じく、守備編についても初歩の初歩から優しく解説されている。現物探しから始まり、捨て牌の筋、数牌ごとの危険度の差まで段階を追って解説されているので、この章を読むだけでも初心者は守備のスキルを大きく向上させることができると思う。

 特に、「他家からリーチされてなければ押し」「他家からリーチされて自分がノーテンなら引き」という単純明快な基準が明記されているのが良い。「ドラがあるから...」「なんとなく和了れそうだから...」と押してしまいがちだが、こうして厳格な基準を決めて手牌に見切りをつけることは、麻雀初心者が初級者になる上での最初の鬼門だと思うので、これに対して明確な基準を提示することは素晴らしいと思う。

 一方で4枚壁についても解説されているのだが、この本のターゲット層に対してはレベル高すぎでは? と感じる。初心者のうちは相手の捨て牌や現物を見つけることだけで精一杯で、それに捨て牌の枚数まで数え出すとほとんどの初心者はキャパオーバーになると思う。4枚壁を見つけて安牌を作り出すテクニックを身につけられたら、守備に関しては中級者以上の実力があるはず。

心構え編

 最も千羽さんのオリジナリティが発揮されているであろう章。麻雀を打っていると必ず直面するメンタルコントロールについて主に書かれている。メンタルの不調は成績に直結するため、メンタルコントロールは麻雀打ちには欠かせない重要スキルだ。

 キンマwebで連載していた頃の「番外編:不調は必ずやってくる! どうやって乗り越えるのじゃ?」というコラムが元になっているのだが、今読み返しても素晴らしい内容。最強クラスの麻雀AI、Suphxにも不調があったことや、ランダム分布にも大きな偏りが生じうることなど、「不調はどんなプレイヤーにも訪れる」という客観的な事実を提示して、じゃあそれにどう対処するのか? を解説している。役に立つと同時に、麻雀打ちとして勇気づけられる内容で、全ての人に読んで欲しいと思える文章だ。

 基本的な内容に終始しているこの本の内容において、この章のみ千羽黒乃イズムが前面に出ている。他の初心者向け戦術書ではメンタルコントロールを解説されているものを見たことが無いので、この章がこの本の差別化要因になっていると思う。「麻雀であれだけやられても一切イライラしないって千羽さんどんだけメンタル太いんだ?」と疑問に思っている人は一読をオススメ。

 全く関係ないけど、この本はですます口調で統一されていて千羽さんのキャラクターはほとんど表現されていないのだが、この章で「麻雀は生きた人間のするゲームなので、(私は鴉天狗ですが)そうしたミスというのは必ず起こるもの。」と急に鴉天狗要素を含んだ文章がブッ込まれてきたところは笑ってしまった。

全体的に

 かなりクオリティの高い戦術書だと思う。全体的に初心者が効率よく強くなるためだけにコミットされているので、無駄なことは説明されていないし道筋が分かりやすい。上記に挙げたように一部難易度が高かったり説明不足だったりする箇所もあるけれど、それは他のメディアに触れて補完したり実践の中で実感できれば良い。

 そして、こんなストイックな戦術書を書き上げた千羽さんはやはり麻雀に対してめちゃくちゃ真摯なんだなと感じた。普段の配信からも、麻雀の楽しさをもっと伝えたいというスタンスで活動されているし、それがこの本の仕上がりにも具現化されていると思う。今後の企画も水面下で進行中ということだが、次にもし中級者向けの戦術書を出す時には今度はどのようなことを書くのだろう? と期待の持てる本だった。