打ち首こくまろ

限界オタクの最終処分場

EScapeとMythmaker、同じ曲だけど違う曲

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 ミリオンライブ6thライブツアーお疲れ様でした。埼玉でもお会いしましょう。

 僕が6thライブで一番期待していたのは、Princess公演での「咲くは浮世の君花火」と「Super Lover」と「リフレインキス」だったので、そのうち2つが聴けてマジで最高だった。本当に最高だったので、福岡のFairy公演には悪い意味ではなく、特に何も期待を持っていなかった。Princess公演の楽しさを上回ることは難しいだろうなぁと思ってたので。

 確かに、Princess公演の方が楽しかった。ただ、Fairy公演の方が圧倒的にヤバい。エモいとかではなく、ヤバい。とんでもないライブだった。

 これだけ衝撃的なライブは、自分がアイドルマスター初心者だった頃に参加した初星宴舞以来だった。

kokukoku.hatenablog.com

 久々に読み返してみると文章が稚拙だったり曲名間違えてたりするしコイツ最低だな。

 Fairy公演は衝撃的瞬間の連続だった。まさかのトップバッターD/Zealに始まり、まさかの流星群、弾き語り、餞の鳥。そしてミュージカル一本やってスパッと去っていく夜想令嬢。これまでのライブの流れを覆してソロ曲から始まる後半戦。Silent Joker、俠気乱舞。上げていったらキリがない。

 キリがないからここでは一点だけ濃厚に語りたい。それは3番目に登場したユニット、EScapeの4曲のセットリスト。

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 EScapeのステージは「I.D~EScape from Utopia~」から始まった。これまでのライブでも、ミリシタ実装曲から始まるユニットが多くを占めていた訳だが、曲調から考えてEScapeが「I.D」から始まることは驚きではなかった。

 しかし、1曲目が終わった直後、僕は凄まじい衝撃を受けることになる。

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 Mythmaker。

 マイフェイバリットソングの1つ。インダストリアルで徹底的に熱を排除した曲調、そこにソウルフルでかつ透明な歌声が乗る。ライブで歌われたら絶対に映える。一度でいいからライブで、生でMythmakerを聴きたい。Princess公演終了後、友人にそう熱く語っていた。

 まさかここで。EScapeのカバー曲には「Next Life」を激推ししていたのだけど、それとは違う、でも喉から手が出る程聴きたかった曲。あの極端に誇張されたドラムの音が聞こえた瞬間、衝撃と驚きと喜びでしばらく頭を抱えてしまった。

 ただ、そういう「自分とMythmaker」みたいなことを語りたい訳ではない。「Mythmakerの曲調と、EScapeの雰囲気ってすごいマッチするよね」みたいな自明のことを改めて言いたい訳ではない。「Mythmaker」を、このEScapeのステージで歌われることによって生まれる妙と凄さについて語りたい。

Don't speak carelessly アドリブなど挟ませず
いっそ「人形だ」と揶揄されてもskip it
Would you play? Would you bless? 望むように
この歌が呼ぶ よろこびたち
誰にも隔てないで Please flow like a dream
眩いほどに紡ぎあって
Uprise, euphoria...

 三浦あずさの歌う「Mythmaker」は、ステージに立つ者の矜持をシリアスに描いたものだ。その歌詞に描かれている姿勢は尋常ではない。チャンスを掴むために、バックステージを抜けて戦場に身を投じる。ステージに立てば、違う自分が目覚める。観客の期待に応えるために、その望まれる「姿」を「完璧」に演じきる。どこまでもこの歌よ響けと、祈る。プロ意識という言葉では生温い。描かれているのはまさに「Mythmaker = 神話を創る者」、ステージ上で伝説になろうとしている人間だ。

 一方でEScapeの世界観は「近未来の徹底した管理社会」であり、EScapeの3人は「管理社会を維持するために生産されたアンドロイド」だ。「Mythmaker」が描く「ステージ上のエンターテイナー」という世界観とは、本来は全く交わらない。

 しかし。

 Fairy公演での「Mythmaker」のイントロ。暗闇の中で空から光が降り、それが演者と重なると弾け、衣装に光が宿り、動き始める。これだけで観客は分かる。これはドラマCDの冒頭、3体のアンドロイドの起動シーケンスを、ステージ上で表現したものだ。起動した直後、そしてキサラギチハヤに出会う前。ステージに立つのは、そんなココロを持たないアンドロイドであり、この世界の支配者たるマザーの操り人形。そして、そんな彼女たちが歌う「Mythmaker」は、全く違う意味を持ち始める。

Don't speak carelessly アドリブなど挟ませず
いっそ「人形だ」と揶揄されてもskip it
Would you play? Would you bless? 望むように
この歌が呼ぶ よろこびたち
誰にも隔てないで Please flow like a dream
眩いほどに紡ぎあって
Uprise, euphoria...

 EScapeの歌う「Mythmaker」は、このユートピアを担うアンドロイドの姿を描いたものだ。「より良い社会を作りたい」という人間の欲望の果てに生まれたアンドロイドによる管理社会。インストールされたロジックとインプットされた入力通り、「あなた」が望むように働くアンドロイド。彼女らの動きは完璧に調律され、まるで美しいハーモニーのように響いて、そうしてこの世界は「幸福」に満たされる。そう信じて疑わないアンドロイドたちの歌だ。そう考えると、「Mythmaker」というタイトルさえ皮肉に感じてしまう。mythは神話、要はフィクションであり、「Mythmaker」とはつまり「ありもしない幻想を創り出す者」だ。

 1人の歌手を描いた歌が、歌い手が変わり演出が加わると、ディストピアを構成するアンドロイドを、暗喩を散りばめながら描く曲になる。

 ある曲が他の人にカバーされることによって、違う意味合いが生まれることはよくある。しかし、それは原曲のベクトルを基にして、そこに歌い手の心情や背景が上乗せされることによるものだ。この「Mythmaker」のように、ベクトルの向きを全く変えてしまって、同じ曲なのに完全に違う世界観が与えられる例を、僕は他に知らない。凄い。こんな芸当ができるのはミリオンライブ以外に無いのではと思うくらい凄い。

 「Melty Fantasia」を経て披露された「LOST」もそう。美しい思い出を振り返りながら、失恋の痛みを抱えて感傷的になる曲。しかし、EScapeのステージで披露された「LOST」は、それとは全く違う意味を持った曲になっていたことを、観客はみんな分かったはずだ。

 考えれば考えるほど唸らされる。ただカバーするだけでは無い、ステージ演出を付加させて観客にバックグラウンドを想起させることで、同じ曲ながら全く違う曲に生まれ変わらせる。こんな手法が存在することを知らなかった。仙台公演の時にセットリストをボロクソに叩いてしまい申し訳ないという気持ち。負けを認めると同時に、ミリオンライブのもつ底知れないポテンシャルに改めて感服するライブだった。